第36話 ページ36
『……お……お父様……生まれたばかりは……あんまりかと……』
「ダメだよ。こういうのはすぐにしないといけないんだ。情が湧かないうちにね。やりづらいなら、こうしようか」
『！なっーー』
ルイがカトリーヌの頭に手をかざした瞬間、カトリーヌはドサッと後ろ向きに倒れた。
魔法で眠らされたのか、スースーと寝息を立てている。
赤児は腕の中で泣いたまま。
「心配いらないよ。子供を出産した記憶も消しておくから」
『………！』
キノは異常者を見るような目で父親を睨みつけた。
『命を……なんだと思ってるんですか……？この子は生を受けて生まれ落ちたんでよ？この子を殺さなきゃいけない理由なんてないじゃないですか！』
「魔力を持たなかったのが罪だよ。ウランバルト家はそうやって間引いてきたんだ。初代当主はそうやって力を意地してきたんだよ。この家の者なら、血の掟は守らないとならない」
ルイはそう言うと、手の平を赤児にかざした。
『！何をーーやめて！！』
赤児の真下に鮮やかな蒼色の魔法陣が出現し、そしてーー赤児の泣き声がピタリと止んだ。
息をしていなかった。
『なん……てことを……』
キノはショックのあまり言葉が詰まった。
「森に遺棄してきなさい。獰猛な魔法生物が骨も残らず食べてくれるよ」
ルイは部屋から出て行ってしまった。
眠らされた母親の腕の中で、息絶えた姿の赤児。
余りにも無慈悲。
『っ……！』
涙がこぼれ落ちた。
カトリーヌは好きになれなかったが、流石に父親を許せなかった。
産まれて間もない赤ん坊を殺害され、産んだ記憶さえも抹消され、カトリーヌはこの赤ん坊を思い出すこともなく、また妊娠させられる運命に、キノは怒りで震えた。
無慈悲極まりない父親をどうにかしなければと強く思った。
だが、今のキノにはそんな勇気はなかった。
赫い石の継承者ならば余裕で抑え込むことができる。
この時のキノはそこまで頭が回らなかったようだ。
言われたとおり、キノは白い布で赤児を包んだ。
部屋から出て行くキノの姿をローズが見ていたが、キノは気がついていなかった。
ーーせめて、せめてちゃんと埋葬してあげないと！
キノは白い布で包んだ赤児の遺体を抱き締め、小高い丘へ向かった。
季節関係なく様々な花が咲き乱れる小高い丘はキノの大好きな場所。
そこに土を掘り、綺麗な花を沢山摘んで、赤児と一緒に埋葬した。
手を合わせ、心の底から詫びることしかできない自分を呪った。
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作者名：あっちゃん | 作成日時：2023年5月5日 9時
