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35話 ページ36

「んーん、良い子っスよ」

「……」


何故か、絶対にそう言わなければいけないと思ったから、そう言った。オレがそう言うと、Aくんは笑みを浮かべたまま、心底悲しそうに、嬉しそうに。


「しなせ、て」














「も、A、は、がんばりたくない、です」


「ラギちゃにひどいことしたい、けど、ラギちゃにひどいことすると、つらい、から。ラギちゃがいいっていってても、つらい、から。がまんするのも、つらい、から」


「なんにも、がんばりたくないです。ラギちゃ」


「らくに、してくださ」


「良い子で、居させて」


「良い子の、Aとして、終わらさせ、て」


「もう、良い子で居るには、酷いこといっぱいしすぎたけど、でも、まだラギちゃが、ラギちゃが良い子だってAのこと言うなら、良い子なん、です」


「ほんとは、A悪い子だから、苦しんでしなないとって思ってたんですけど、でも、ラギちゃが良い子だって言うなら、まだ」


「はやく、Aが、悪い子なる前、に」


「み、みんなが、幸せな世界に、なりますよう、に」


「Aが、Aみたいなクズが、二度と生まれて来ませんよう、に」


Aくんがひゅうひゅう喉笛を鳴らしながら必死にでろでろと汚泥のような粘り気のある本心を嘔吐している間、ずっと誰かが絶叫していた。

誰が叫んでいるのだろう、と思った。

耳鳴りだった。

オレは、いつから耳鳴りがしていたか考えた。


「みんなが、幸せな世界に、なりますよう、に」


Aくんは、もう一回それを言って、ベッドに突っ伏していた上体を上げて、姿勢を正す。

Aくんの身体で隠れていた膝の上には、包丁が置いてあった。

Aくんは、包丁に映る自らの顔と視線を合わせて、それを右手で、しっかりと握って持ち上げて。横に持って。


「どっちが、やる?」


それもオレに選ばせてくれるんスね、と。

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功徳(プロフ) - オパールさん» ありがとうございます!よろしければ他の作品も読んでくださると好みに合うかもしれません🥰 (11月10日 20時) (レス) id: e0d582f997 (このIDを非表示/違反報告)
オパール - とーっても…面白かったです!この作品を作ってくれて、ありがとうございます! (11月10日 19時) (レス) @page42 id: e52a8096f8 (このIDを非表示/違反報告)
自分(プロフ) - 新.sinさん» 一気読みありがとうございます!これを気に入ってくださった方は私の別作品も気に入っていただけそうなのでおすすめさせていただいております……💕重ねてお読みいただきありがとうございました🥰🥰🥰 (2022年8月14日 16時) (レス) id: a1f82c8f4e (このIDを非表示/違反報告)
新.sin(プロフ) - 一気読みしてきました。私が占ツクで見てきた作品史上最も好き!!って思いました!!素敵な作品をありがとうございました! (2022年8月14日 15時) (レス) @page42 id: 03f8c9269c (このIDを非表示/違反報告)
自分(プロフ) - 黒恋さん» わーーいありがとうございましたお疲れ様でした〜!!!本当にありがとうございます……💕💕💕嬉しい嬉しいなあ…… (2022年6月2日 18時) (レス) id: a1f82c8f4e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:わたし | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年10月26日 9時

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