名前 dtnb ページ14
nb side
ふと意識が浮上して、ゆっくり目を開ける。
少しだけ肌寒くて布団に潜り直せば背中からまわる腕。
…ああ、そうか。
dt「…起きたの」
nb「……ん、」
ぎゅっと温もりに包まれて、また暗闇へと意識が遠のく。
dt「まだ寝てていいよ。おやすみ」
涼太の声を最後に夢へともう一度旅立った。
そんな甘い朝は、一瞬にして終わる。
次に目が覚めた時、ベッドの中には俺1人。
時計の針は9時を指していた。
空気に触れた途端寒くて仕方なくて。
急いで洋服を着て寝室を出た。
そこには、ラップがかかったオムライスが一つ置かれてるだけ。
それ以外はいつも通りの空間が広がっていた。
涼太との関係に名前はない。
強いて言えば、幼馴染。
俺は涼太の、それ以上にもそれ以下にもなれない。
始まりははっきりと覚えてる。
俺は涼太が好きで、涼太の1番になりたくて。
幼馴染じゃ足りない。もっと特別な名前が欲しい。
そんな独占欲から、ホテルで同室になった彼を誘った。
dt “ちょっ、翔太！”
nb “ね、お願い”
nb “…っあぅ、りょーたぁっ”
dt “っなあに、翔太”
そこからズルズルと名前のない関係は続いて。
最初は渋っていた涼太もだんだんと拒否しなくなって。
2週間に一度、お互いの家を行き来して“行為”に及んだ。
nb「…もう、一年」
一年がたった。
あの日から、今日でちょうど。
はじめて与えられた感覚に涙が出たのをよく覚えてる。
涼太は焦ったように拭ってくれたけど、あれは嬉し涙だ。
それでも俺たちの関係は周囲から見れば何も変わっていなかった。
付き合ったわけでも、特別仲良くなったわけでもなく。
フられたり避けたりなんかされぬまま、誰かに気づかれるような変化はなかった。
ただ、俺からしたら。
あの日から涼太の心が見えなくなってしまった。
何を感じて、考えて。
涼太を理解できるのは俺だけだと豪語できていたはずなのに、今は誰よりも彼の心が読めなくて。
それだけ、涼太が俺に心を閉ざしてしまった証拠だ。
ただ淡々と俺のわがままを受け入れ、俺が望むように与えて、見返りなんて求めず去っていく。
その事実は、涼太を恋焦がれて苦しかった時期よりはるかに俺の首を絞めた。
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作者名：鯱 | 作成日時：2023年8月9日 15時
