[#コンパス]存在意義[ルチアーノ]

存在 ページ10

目の前に現れた今は亡き妻の姿に、ルチは目を見開く。








「………あ……ぁあ………あぁ………。」








半透明の布を頭に被り、美しい純白の服を身に付ける妻。この電子世界で、妻の姿を見るのは初めてだった。



突然の出来事にルチは髪をくしゃりと握りながら頭を抱える。

「………ｯ」



ルチは片手に持っていた銃を大きく物音を立てながら落とし、膝を付き、顔を伏せる。

手で顔を覆う。しかし、涙は止まらない。溢れ出る涙に覆う手からもポタポタと滴れる。
ウッ、ウッ、と嗚咽が漏れる。

そのルチを包む様に、妻は身体を優しく抱き締める。その妻の身体に温かさは感じられなかったものの、感覚はひしひしと伝わっていた。

「………………すまない……。本当にすまなかった……。」

後悔からか、ルチは顔を伏せたまま謝罪をする。妻は無言でうっすら目を開けながら首を振る。



ルチの身体から、バグが消えていく。
今まで発して不気味な光が細かく散り散りになって。


それと同時に、妻は足元から霧のようになりながら消えていく。









しばらくの沈黙。
段々と、ルチを抱き締める手に迫ってきた。





妻が少し小さな声で呟く。





「…また会いたい…。」

その言葉に反応したのか、ルチは応えるように強く抱き締める。
その感覚を、ずっと胸に留めておけるように。

「…あぁ…。」


ルチの一言に安心したのか、そっと離れ、消えていく。

その顔はとても素敵な笑顔だった。

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