【銀魂】空想世界が現実世界 7【坂田銀時】

天秤(てんびん) ページ13

……早く大人になりたい、なんて、到底不可能で意味のないことを思っていれば、桂は「A殿、」と私の名前を静かに呼んだ。うつむかせていた顔を少しあげ、見てみるとソイツは変わらず真剣な顔をしていて。


桂「恐らく、銀時はA殿に自分の過去を語ることを恐れている。……あまりに忌々しすぎるだからだ」

「……」


……思わず、息をするのを忘れかけた。喉のあたりに黒い何かが詰まったような不快感。私は今多分、何かに怯えている。そんな風に、ふと思える。

……忌々しい過去。それは、一体どんなものなのだろうか。当然私なんかには想像も出来ないようなものなのだろう。しようとしてみても、私には分からない。

銀ちゃんがあの、いつも私を愛しそうに見つめる赤色の目は、何を映してきたのだろう。あの目で何を見て、何を感じたのだろう。


桂「…俺は、銀時の旧友だ。ある程度のことは解る」


一度目を伏せ、そして再び私を見据えると続けた。


桂「……A殿は聞きたいか。銀時の過去を」

「……私は…」


……私は、どうしたいのだろう。

なんだか、よく分からなくなる。さっきまで、銀ちゃんのことを理解したい、もっと知りたいと強く切実に思っていたはずなのに、今もその気持ちは萎んでなんかいないはずなのに、答えが見えない。


……知りたい。そりゃあ、知りたいよ。銀ちゃんの過去も。銀ちゃんは私の過去を、あんなにも優しく受け止めてくれた。そして、救ってくれた。だからきっと私も同じように知らなきゃならないのだと思う。どんな過去でも、どんなに忌々しくても。けれど。


……それを私が知った所で、私に何が出来るの？


私に銀ちゃんの抱える何かを、消してあげることなんて出来るのだろうか。軽くする何か、ほんの少しの何かになれるのだろうか。

そんな事も出来ないくせに、それを聞き出すのは、間違っている。それはただ、銀ちゃんをまた傷つけるだけだ。


……でも、そうと分かっていても、『知りたい』という気持ちは、ちっとも無くなりはしない。

きっと、聞かない方がいいと思う気持ちと、知りたいと思う気持ちは、五分五分なのだと思う。矛盾した気持ちが、同じくらいの重さで存在する。


……天秤が平等になっている。それは、どちらの方向に傾く？


……それは。

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