107話 ページ11
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「お呼びですか、主様」
「未だ呼んでいませんが……丁度良かったです」
「お褒めに預かり光栄です」
彼が彼の名を発することは無かった。
発声する前にフョードルの背後に既に立っていたからだ。傍から見れば一種のホラーである。
「この状態を見れば分かるのですが、Aが寝込んでいるのは異能の暴走が原因と思われます」
ニコニコと笑顔を浮かべる侍従長に説明すると、彼も頷いた。主の言うことは絶対。
そんな中、ふよふよと浮くだけだった電子機器達が突然自我を持ったかのように動き出した。
「………?」
「主様、此方は……」
宙に浮かんだまま生き物の如く動き出した電子機器達。最初こそ穏やかにゆっくりと動いていた。
けれども音が鳴りだした時と同じように、少しずつそれは動く速さを増した。
彼女のベッドを中心に電子機器達が舞って渦を生し、高速メリーゴーランドと化した。
「……異能の暴走を解除する方法とは何でしたか?」
「恐らく、時間の経過を待つか無効化の異能者を連れて来る事にございます」
「無効化の異能者……」
無効化の異能者を連れて来る。
其れ即ち、日本から太宰治と云う男を引っ張って来なければいけない。彼が大人しく着いてくるものか。
それ以前にあの男をこの屋敷に招きたく無い。
だが、病状に苦しむAをそのままにするなんて、(妹に歪んだ愛情を抱く)心優しいフョードルには考えられなかった。
医者に診せてもダメだったのだ。さて、どうしたものか。
彼は頭を抱えた。
きっとこの世でフョードルを悩ませることが出来るのは彼女だけだ。
現時点では彼女を助ける術は無い。
せめて、原因不明の高熱だけでも。
身体の熱を冷ますことが最優先としよう。
「ありったけの氷と、冷却の異能を所有する部下を呼んで来てくれませんか?」
「拝命致します」
長く美しい銀髪を揺らして侍従長は部屋を出たのを見送り、フョードルはこの異常と対峙した。
荒ぶる電子機器達の渦を潜り抜け、彼はAの頬へ手を寄せた。
嗚呼可哀想に、こんなに熱くなってしまって。
ちらほらぶつかってくる物もあったが、衝撃はそれ程無かった。精々ペチペチとつついてくる程だ。
今の彼の表情は、まさに聖母のそれだ。
普段彼女が彼に向けているような表情。
Aはフョードルにとって最愛の妹であり、拝むべき女神であり、恋慕の対象なのだ。
目を瞑り、彼は本日通算104回目の神に祈りを捧げ始めた。
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瑞稀 - 好きとしか言いようがないっすわ…監督生の言ってることに共感しか湧かないのは何なんすかね…神作ktkr(ありがとうございます) (7月21日 4時) (レス) @page38 id: 0ecff74da0 (このIDを非表示/違反報告)
yuuna(プロフ) - 双子の愛が素晴らしいなと思いました!双子と呪術廻戦のクロスオーバーが見たいです! (2021年3月27日 0時) (レス) id: a73b6209c2 (このIDを非表示/違反報告)
煨(ウズミビ)(プロフ) - → 私自身が片割れになった様な気持ちで読んでいたので余計…笑 何度でも云えますが、本当に素晴らしい作品でした。有難う御座います。 (2021年2月9日 1時) (レス) id: eaf0a1c543 (このIDを非表示/違反報告)
煨(ウズミビ)(プロフ) - 初めまして、つい先程一気読みさせて貰いました。私はtwstは余り詳しく無いのですが、読んでいて迚も楽しかったです。フェーヂャと片割れに関する監督生さんの語り等……所々笑いながら読めて面白かったです。又、自分が二次創作の中の伽羅と云うのが不思議な感覚でした (2021年2月9日 1時) (レス) id: eaf0a1c543 (このIDを非表示/違反報告)
暁郗 - ミ゜ッ(死亡) (2021年1月11日 20時) (レス) id: 14cb33816d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あ〜ちゃん x他1人 | 作成日時:2020年7月24日 0時