小湊春市 × 名前 ページ43
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前々から感じていた違和感みたいなものはあった。
「栄純くん」
ある日の練習後、食堂でいつもの様に同級生に囲まれて話をする彼の姿を見つめる。
「栄純くん」それは彼が同級生を呼ぶ時に使われる物で、同い年だし、仲も良いし。当然と言えば当然の呼び方だろう。
「あ、洋さん。この後なんですけど…」
今度は倉持に「洋さん」と声を掛ける彼。いつの日からか「倉持先輩」から「洋さん」に呼び名が変わった私と同級生の倉持。
それが、なんだか羨ましい、というか何というか。
「…A先輩?どうかしましたか?」
そんな私の視線に気付いてか、今度は私の名前を呼ぶ彼。
「A先輩…か」
「え?」
「春っちはさ、どうして私の事は名前で呼んでくれないの?」
「えっ、…ちょっと場所変えましょう」
私の直球の質問に顔を赤くする彼。前髪を切ったおかげでその表情は以前よりも手に取るように分かる。
そんな彼に連れられて、食堂を出て自販機の前へと歩みを進めた。今の時間帯ならほとんど人通りは無い。
「それで、どうして私の事は名前で呼んでくれないの?」
「どうしてって、それは…」
歩みを止めたところでもう1度、同じ質問を投げかける。
男友達や男の先輩に対する名前呼びに嫉妬するなんて、自分でも馬鹿げてると思ったけれどもう止められなかった。
「私が先輩だから?女だから?…でも、それ以前に私は春っちの彼女、だよね?」
そう問いかけるとコクンと一度小さく頷く彼。「だったら…」と問い詰める言葉を続けると、彼の方から言葉を遮ってきた。
「なんか、恥ずかしくて」
「…え?」
「恥ずかしいし、やっぱり彼女と言っても先輩だから失礼かな…とか。色々と考えてしまって。でも……」
彼が一歩進んだ事で彼との距離が縮まる。そのまま伸びてきた手が優しく私の頬に添えられる。
「これからは、…A先輩、って呼んでも良い?」
「……もう一声」
「それじゃあ、Aちゃん」
「うん。私も、春市って呼んでも良い?」
「もちろん」
自販機に照らされて出来た2つの影がゆっくりと重なった。
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「Aちゃん」
「は、春っちが先輩の事を名前で呼んでるだと!?先輩への敬意を忘れてしまったのか!?」
「栄純くんうるさい」
「そもそも私たち付き合ってるからね?」
「な、なんだって!?倉持先輩聞きやしたか!?」
「ヒャハ、知らねーのお前だけだっつの」
「ほんと馬鹿」
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美憂春(プロフ) - いえ!これからも楽しみにしてますね!ヽ(*´∀`)ノ (2017年1月22日 23時) (レス) id: 03ce076a00 (このIDを非表示/違反報告)
げび(プロフ) - 美憂春さん» コメントありがとうございます!最後まで読んでいただき、更には全部好きとまで言っていただき本当に嬉しいです。美憂春さんのコメントにいつも支えられてました。本当にありがとうございました!また別の作品も宜しくお願いします。 (2017年1月22日 23時) (レス) id: f7438c8014 (このIDを非表示/違反報告)
美憂春(プロフ) - 御幸、狙い打ちだー!!ヽ(*´∀`)ノ 私、全部好きです!!(o´艸`) (2017年1月22日 21時) (レス) id: 03ce076a00 (このIDを非表示/違反報告)
げび(プロフ) - 美憂春さん» またまたコメントありがとうございます!亮さんはどんな話にも対応できるのでいつも助かってます(笑)私も自分で書きながらニヤニヤしちゃいました (2017年1月17日 9時) (レス) id: f7438c8014 (このIDを非表示/違反報告)
美憂春(プロフ) - 亮さん、おっとなー!!キャ───(*ノдノ)───ァ笑 にやにやしちゃいました!笑 (2017年1月16日 23時) (レス) id: 03ce076a00 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:げび | 作成日時:2016年10月4日 0時