【ダイヤのＡ】甘くて苦い恋の味【短編集】

伊佐敷純 × 相談 ページ20

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放課後、受験勉強という名目で純と二人、教室に残って分からない所を教えあっていた。少し勉強に飽きて「ねぇ、純」と声を掛けると「あ？」と問題集に向き合ったまま返事をしてくれる。


「映画のチケット手に入れたんだけど、男の子的にこういうの興味ないかな」


ガサゴソと鞄から取り出した二枚のチケット。少女漫画が実写化された映画だ。


「俺に聞かれてもな…。俺ぁ原作も読んでるし普通に見たいけどよ」


チラリと私の手にしたチケットを一瞥してそう言う純。「ま、誘うだけ誘ってみりゃいーんじゃね？案外好きかもしんねーぞ」と背中を押してくれる彼は私が本当は純のことが好きなのに、他の人……多分哲辺りを好きだと思っている。


純には一般男子の意見を聞くフリをして、純のことを知る為に「野球部で、同じ３年に好きな人がいる」というのだけを伝えて相談をしている。幸か不幸か純は相手は誰かとしつこく追究してきたりはしないので、この想いを伝えられないままでいた。


「そうだね、誘ってみる。」


でも気付けば部活を引退して、一緒に過ごせる時間は残り僅かになっていて。もうそろそろ勝負を仕掛けないといけない。私は意を決して二枚の内、一枚のチケットを純の拡げた問題集の上に置く。


「あ？誘うんじゃなかったのかよ？」


ぐっと眉を寄せて怪訝そうにチケットと私の顔を交互に見る純に「だから、誘ってるんだけど…純のこと」と言うと何度か瞬きをした後、「はぁ！？」と大きな声を出して立ち上がる純。


「いや、お前の好きなヤツって……」


「純だよ。私、純のことが好き」


「え？は？嘘だろ…？」


「嘘じゃないよ」


すっと立ち上がって純の手を取ると、ゆっくりと私の胸の真ん中に当てる。


「ドキドキ言ってるの…わかる？」


純は「な、ば、おまっ…」と顔を真っ赤にして言葉にならない声を上げている。


「私、卒業してもずっと、純の隣に居たい。」


ハッキリと自分の言葉で想いを伝えると、純は手の甲で口を隠しながら「俺も、お前の事ずっと好きだった」と普段の純からは想像も付かないような小さな声で言ってくれる。


「……本当に？」


その言葉が信じられなくて、そう言うと「嘘なんかつくかよ」と少し乱暴に腕を引かれて純の胸に頭を押し付けられる。


「お前と同じようにドキドキいってんだろーが」


コクンと一度頷くと「映画、今から行くか？」と優しく頭を撫でながら言ってくれた。

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