【ダイヤのＡ】甘くて苦い恋の味【短編集】

白河勝之 × 不機嫌 ページ15

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「それでその後鳴が――……って聞いてる？」


「聞いてない」


「もー！ちゃんと聞いてよ」


「うるさい。黙れ」


稲実野球部には珍しい１日オフの日。折角だから偶にはどこか出掛けようと面倒臭がる彼を無理矢理寮から引き摺り出して外に出たは良いものの、彼―白河勝之はいつも以上に不機嫌な様で。


元々口数は少なく、サラッと毒吐く様な性格の彼なので多少酷い事を言われてもそれも愛の形だと聞き流しているのだが、今日は本当に何を言っても文句しか返ってこない。


「じゃあ仕方無い。カルロが全裸で食堂に来た話をしよう」


「聞きたくない」


隣を歩く彼は前を向いたまま、そう言って歩みを少し早めるものだから小さく溜息を吐く。今日誘った事自体、失敗だったかなーと苦笑していると後ろから声を掛けられて振り向く。


「お姉さん１人？一緒に遊ばない？」


大学生くらいだろうか。いかにも遊んでますといった感じの男の２人組がニコニコと笑顔を浮かべて私を見ている。えっ、と戸惑っている間にも腕をつかまれ「アイス食べようよ、奢るから」と腕を引かれる。


「…触るな」


振り解こうにも簡単に振り解く事が出来ず、どうしようかと思っているとスタスタと早歩きで戻ってきた勝之が私の腕と相手の腕を掴んで引き剥がしてくれる。「これ以上近付いたらコロス」なんて睨みつければ男２人は諦めたのかそそくさと消えて行った。


「ごめん、ありがと…」


そう呟けば黙っていた勝之が大きく息を吐く。


「勝之、ごめんね。私と一緒に出掛けても楽しく無いよね。帰ろうか」


これは本気で怒ってると思った私は黙る相手にそう続ける。でも、帰路に着こうとする私とは反対に歩き出そうとはしない勝之。


「……別に、出掛けるのが楽しく無いわけじゃない」


漸く口を開いた勝之。「それじゃあどうして…」と言葉を続けると腕を掴んでいない方の手で両頬を挟むように顔を掴まれる。


「アンタは俺の彼女だろ？

…だったら何で、他の男の話ばかりする」


「へ？」


「会ってからずっと、他の男の話ばっか。この口から他の男の名前なんて聞きたく無い」


彼の思ってもみなかった発言に目をパチクリとしていると、乱暴に唇を塞がれる。


「……わかった？」


「ふふ、勝之、大好き」


「気持ち悪い」


唇が離れたと同時に顔を掴んでいた手も離される。不機嫌だった理由は嫉妬だと分かってニヤニヤと笑みが零れた。

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