結城哲也 × 彼ジャー ページ12
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3年生の先輩たちが引退して、秋大会も終わり気付けば冬がもう直ぐそこまで近付いているある日。
「……くしゅんっ」
「A大丈夫?」
「はい、今日は一段と寒いですねぇ」
アップを始める選手を見守りながら私たちマネージャーも準備をする中、数度、くしゃみが出て「風邪引かないでね」と貴子先輩に声を掛けて貰う。
ドリンクの用意をして、水で冷えた手を擦りながらグラウンドの様子を見ていると彼氏でもある結城先輩が駆け寄ってくる。
「……?先輩、どうしました?」
アップの途中に抜け出して此方に来た先輩にきょとんと小首を傾げると先輩は着ていたジャージを脱いでバサッと私の肩に掛ける。
「…えっ、ちょっと、先輩…!」
「寒いだろ?それ、着てていいぞ」
「いや、でも先輩が……」
「俺は体を動かしているから大丈夫だ。それよりもAに風邪でも引かれたほうが困る。」
そう言って薄く笑みを浮かべた先輩は大きな掌を私の頭にぽんっと乗せるとそのままグラウンドに戻っていった。
走る先輩の背中を見届けてから、ゆっくりと肩に掛けられたジャージに手を通す。残った先輩の温もりと匂いを感じて体の芯からポカポカと温かくなる、そんな気持ち。
「やっぱり大きいなぁ……」
少し動きにくいけれど先輩に抱き締められてるような、そんな感覚を抱きながら仕事をする。でもやっぱり白い息を吐いている先輩を見ると居たたまれない気持ちになる。
ジャージを先輩に返したいけれど、きっと受け取って貰えないだろうし、どうしようかと考えて、ある1つの"お返し"をすることに決めた。
休憩に入って選手の皆が集まった時、名前を呼べば「どうした?」と振り向いてくれる先輩にぎゅーっと抱き付く。これが私の考えた"お返し"。
「な、練習中だぞ!!」とか「哲から離れろ!」なんて周りが色々と言うなか、当の本人はきょとんとしている。
「先輩、寒くないですか?」
顔を埋めたままそう言えばやっと状況を理解したのか私の背中に腕を回してくれる。
「あぁ、こうしていれば大丈夫だ」
そう優しい声が頭上から振ってきて自然と笑みが零れる。
「風邪引かないでくださいね」
「Aもな」
顔を上げれば想像通りの優しい表情を浮かべていて、練習中ということも忘れてゆっくりと踵を上げたけれど、近付く前に私は倉持に、先輩は伊佐敷先輩に引っ張られて引き剥がされてしまった。
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美憂春(プロフ) - いえ!これからも楽しみにしてますね!ヽ(*´∀`)ノ (2017年1月22日 23時) (レス) id: 03ce076a00 (このIDを非表示/違反報告)
げび(プロフ) - 美憂春さん» コメントありがとうございます!最後まで読んでいただき、更には全部好きとまで言っていただき本当に嬉しいです。美憂春さんのコメントにいつも支えられてました。本当にありがとうございました!また別の作品も宜しくお願いします。 (2017年1月22日 23時) (レス) id: f7438c8014 (このIDを非表示/違反報告)
美憂春(プロフ) - 御幸、狙い打ちだー!!ヽ(*´∀`)ノ 私、全部好きです!!(o´艸`) (2017年1月22日 21時) (レス) id: 03ce076a00 (このIDを非表示/違反報告)
げび(プロフ) - 美憂春さん» またまたコメントありがとうございます!亮さんはどんな話にも対応できるのでいつも助かってます(笑)私も自分で書きながらニヤニヤしちゃいました (2017年1月17日 9時) (レス) id: f7438c8014 (このIDを非表示/違反報告)
美憂春(プロフ) - 亮さん、おっとなー!!キャ───(*ノдノ)───ァ笑 にやにやしちゃいました!笑 (2017年1月16日 23時) (レス) id: 03ce076a00 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:げび | 作成日時:2016年10月4日 0時