【薄桜鬼】〜美男剣士は、実は女？〜肆

百五十七話　子供達と遊ぼう… ページ8

A「そうでもないさ。
　一人っ子だからこそ
　兄弟への憧れが強くて…」


千鶴「分かります！
　私もずっと憧れていました」


A「……そっか」


無邪気に同意する千鶴の言葉に
Aの胸がつきん…と痛んだ。

彼女の中には、自分はおろか
双子の兄である薫の存在さえも
残っていないのかと。


雪村家滅亡の折に
千鶴は親類の綱道氏に引き取られ
実の子として育てられたのだろう。


…──────しかし、ならば薫は…？


遠く離れた西の地でうんと後になってから
雪村家滅亡の報せを聞いた彼女は知らない。


A (どうか……薫も
　健やかで幸せであって欲しい……)


千鶴のように
自分のことを忘れていても構わないから
ただ彼の今の平穏を願った。


けれども、運命の歯車は回り始めた。


薫との再会もそう遠くない。

……────彼女の望む形にはならないが。



＊ ＊ ＊



その後、子供達の望むままに
かけっこや鬼ごっこなどをして遊んだ。


久しぶりの開放感に二人は胸を弾ませ
子供達も、新選組らしくない
彼女らの和らげな雰囲気にすぐ打ち解けた。

そもそも、総司の姿を探して
つい出来心で屯所に入り込んだものの
声のかけがたい者ばかりゆえに
Aと千鶴を捕まえたのである。


A「よいしょっ…捕まえた！」


「きゃーっ！」


「お兄ちゃんはやーい！」


両脇に手を差し込まれてAに
軽々と持ち上げられ
男児が堪らない高揚感に声に出して笑った。


「こっちのお兄ちゃんはおそーい！」


千鶴「ご、ごめんね……もう限界かも…っ」


そう指摘された千鶴は
肩を上下に動かして荒い呼吸を繰り返し
すでに虫の息である。


A「……子供の体力の
　無尽蔵さを甘く見ていたようだな。
　千鶴は無理せず休んでくれ」


千鶴「は…はい…Aさんはさすがですね」


その場に腰を下ろすと、
倦怠感から千鶴は一歩も動く気力がなくなった。


A「日頃の鍛練に比べればな。
　可愛らしい子供達を見ていると
　いくらでも力が湧くものだ…」


抱えた子供をぎゅっと抱き締めると
ぽかぽかの体温が伝わった。

すると──…


「ねーお兄ちゃん！
　もしかしてお兄ちゃんって女の人？」


A「ぅえっ？！な…なぜそう思った？」


鋭いその指摘にAは目を見張った。

愛らしい千鶴を差し置いて
なぜ己の男装が見破られたのかと
動揺を隠せない。



＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


続く

察しの良い恐ろしい子

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