百七十話 やり直せるのなら ページ25
目を開けると、
想像通りの光景が映し出された。
「君の手が冷たくて心地よいので
少し…こうしていても構わぬだろうか?」
「は、はい…っ」
視界の中心で少女はこくこくと何度も頷いた。
鬼ゆえにけして日光を浴びることのない
色白な肌が真っ赤に色付く様は
幼い姿とはいえ浮世離れした美しさがある。
時が経って互いの体温が調和してもなお
杏寿郎はその手に頬を寄せ続けた。
* * *
次に場面が移り変わると、
身体の自由は利くが
先程より幾分か小さいことに気付く。
握られた木刀が手に合ってないのだ。
(一体……何が起きている…)
続けざまに起こる摩訶不思議な事象に
杏寿郎は呆然と立ち尽くす。
しかし、母の部屋から物音がして
訳も分かぬままそちらへ駆け出した。
「何事ですか母上!?」
勢いよく襖を開けると
母に抱きついているあの少女がいた。
(これは……)
初めて少女と顔を合わせた場面だと
直感的に杏寿郎は理解する。
月明かりに照らし出された姿が
独特の雰囲気を醸し出し
幼い日の彼にもすぐに鬼と断定できた。
しかし───…
母の病を癒してくれたとは夢にも思わず
彼は母を守りたい一心で
手にした木刀を向けてしまったのだ。
(絶対にあってはならぬ……!!)
木刀を手放して少女の元へ歩みを進める。
包み込むようにその手を握ると
どちらの手もなんと小さいことかと驚く。
(この頃の俺の手で守れるものはなかったのに
君はこんな頃からずっと……)
「あ、の…」
突然のことに戸惑っている様子の少女。
否、これは己の都合の良いように想像した
少女の幻影だともう気付いている。
「────俺はやり直したかった」
たとえこれが幻であろうと
口から溢れる後悔を止める術はない。
「その活躍や日常の些細なことも
人伝えに聞くのではなく
誰よりも近くで見ていたかった」
その名も当然知っているが
互いに名乗るまで呼びたくはなかった。
「これが現実ではないのは理解した。
だが……それでも伝えたい」
己の欲と向き合って気付かされた。
これは自己満足に過ぎず
何の意味もないと理解している。
「俺は君のことが……」
思いの全てを出し尽くそうと
大きく息を吸い込むが、
────ゆら…っ
視界が揺らいだかと思うと
杏寿郎は長い夢から解き放たれた。
禰豆子の血鬼術の火が
魘夢の血の混ざったインクが使われた切符を
焼き付くしたのである。
**********
続く
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亜紀野ユキ(プロフ) - 桜井直(なお)さん» ありがとうございます(´ω`*)コツコツ頑張ります (2023年1月29日 12時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
桜井直(なお)(プロフ) - 亜紀野ユキさん» ヒロイン、可愛い。。作者さんは天才!こんないいお話を!続編待ってます! (2023年1月29日 10時) (レス) @page50 id: f84b7d123d (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - 綺羅さん» わっしょいなご祝儀ですね(*´∀`)占いコーナーまでご閲覧嬉しいです (2023年1月18日 21時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - kanayamamoto112さん» こんな子ならストーカー気質でも推せますね(*´ω`*)ほっこり (2023年1月18日 21時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
綺羅(プロフ) - 尊いッ!!見ていて癒やされます、御馳走様です(笑)ご祝儀はサツマイモでも…(笑)そして占いのおはぎに笑いました(笑)一か八かでずんだにして持って行ってみます!← (2023年1月18日 21時) (レス) id: fcc9d08bef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:亜紀野ユキ | 作成日時:2022年9月7日 17時