検索窓
今日:18 hit、昨日:127 hit、合計:163,205 hit

百七十話 やり直せるのなら ページ25

目を開けると、
想像通りの光景が映し出された。


「君の手が冷たくて心地よいので
 少し…こうしていても構わぬだろうか?」


「は、はい…っ」


視界の中心で少女はこくこくと何度も頷いた。

鬼ゆえにけして日光を浴びることのない
色白な肌が真っ赤に色付く様は
幼い姿とはいえ浮世離れした美しさがある。


時が経って互いの体温が調和してもなお
杏寿郎はその手に頬を寄せ続けた。



* * *



次に場面が移り変わると、
身体の自由は利くが
先程より幾分か小さいことに気付く。

握られた木刀が手に合ってないのだ。


(一体……何が起きている…)


続けざまに起こる摩訶不思議な事象に
杏寿郎は呆然と立ち尽くす。

しかし、母の部屋から物音がして
訳も分かぬままそちらへ駆け出した。


「何事ですか母上!?」


勢いよく襖を開けると
母に抱きついているあの少女がいた。


(これは……)


初めて少女と顔を合わせた場面だと
直感的に杏寿郎は理解する。


月明かりに照らし出された姿が
独特の雰囲気を醸し出し
幼い日の彼にもすぐに鬼と断定できた。


しかし───…

母の病を癒してくれたとは夢にも思わず
彼は母を守りたい一心で
手にした木刀を向けてしまったのだ。


(絶対にあってはならぬ……!!)


木刀を手放して少女の元へ歩みを進める。

包み込むようにその手を握ると
どちらの手もなんと小さいことかと驚く。


(この頃の俺の手で守れるものはなかったのに
 君はこんな頃からずっと……)


「あ、の…」


突然のことに戸惑っている様子の少女。

否、これは己の都合の良いように想像した
少女の幻影だともう気付いている。


「────俺はやり直したかった」


たとえこれが幻であろうと
口から溢れる後悔を止める術はない。


「その活躍や日常の些細なことも
 人伝えに聞くのではなく
 誰よりも近くで見ていたかった」


その名も当然知っているが
互いに名乗るまで呼びたくはなかった。


「これが現実ではないのは理解した。
 だが……それでも伝えたい」


己の欲と向き合って気付かされた。

これは自己満足に過ぎず
何の意味もないと理解している。


「俺は君のことが……」


思いの全てを出し尽くそうと
大きく息を吸い込むが、


────ゆら…っ

視界が揺らいだかと思うと
杏寿郎は長い夢から解き放たれた。


禰豆子の血鬼術の火が
魘夢の血の混ざったインクが使われた切符を
焼き付くしたのである。



**********


続く

百七十一話 轟音とともに…→←百六十九話 追憶と後悔と…


ラッキーアイテム

さつまいも 煉獄さんに貢ぎましょう!!


目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (378 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1161人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 鬼化 , 煉獄杏寿郎
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

亜紀野ユキ(プロフ) - 桜井直(なお)さん» ありがとうございます(´ω`*)コツコツ頑張ります (2023年1月29日 12時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
桜井直(なお)(プロフ) - 亜紀野ユキさん» ヒロイン、可愛い。。作者さんは天才!こんないいお話を!続編待ってます! (2023年1月29日 10時) (レス) @page50 id: f84b7d123d (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - 綺羅さん» わっしょいなご祝儀ですね(*´∀`)占いコーナーまでご閲覧嬉しいです (2023年1月18日 21時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
亜紀野ユキ(プロフ) - kanayamamoto112さん» こんな子ならストーカー気質でも推せますね(*´ω`*)ほっこり (2023年1月18日 21時) (レス) id: 737b70383c (このIDを非表示/違反報告)
綺羅(プロフ) - 尊いッ!!見ていて癒やされます、御馳走様です(笑)ご祝儀はサツマイモでも…(笑)そして占いのおはぎに笑いました(笑)一か八かでずんだにして持って行ってみます!← (2023年1月18日 21時) (レス) id: fcc9d08bef (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:亜紀野ユキ | 作成日時:2022年9月7日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。