29余所見 ページ35
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「ほら、早く!」
カナヲを連れて隠し場所を探す。
屋敷の中も隠れて良いはずだから、押し入れにしよう。
「閉めるから、暗くて怖かったら言えよ」
「う、うん...」
中に入り、戸を閉めると、本当に真っ暗だった。
でも、カナヲは怖がっているようにも見えなかったから、大丈夫だと思った。
「さ、幸...あの..」
何だか、初めて名前を呼ばれた気がする。
今思えば、ちゃんと会話したのも初めてかもしれない。
「どした?」
「...ありがとう」
いきなりお礼を言われたから、ちょっと照れる。
「こちらこそ、いきなり引っ張ったりしてごめんね」
すると、カナヲは首を横にブンブン振って「そんな事ない」と言った。
カナヲはきっと、本当は凄く良い子なんだ。
俺みたいに性格がひねくれてない。
「ずっと言おうと思ってたんだけど、幸は自分の名前、嫌いなの...?」
どこから仕入れた情報なんだろうか。
俺と師範(まだこの時はカナエさん)で話しているのを聞いたのだろう。
「どちらかというと、嫌い」
俺が吐き捨てるように言うと、暗いせいでよく見えないのにも関わらず、カナヲは優しく俺の手を握って、目を真っ直ぐ見つめてきた。
「幸って、とっても良い名前だと思うよ。一緒にいて幸せにしてくれそうだから...」
そこからは、よく覚えていない。
案外すぐに見つかったのかもしれない。
それとも、最後まで見つからなかったのかもしれない。
でも、一つだけ覚えていたのは、
俺を見つめた時に光った彼女の瞳だけだった。
カナヲが、俺の名前の意味を変えてくれた最初の人だった。
───
んー...今思い返せば、俺ってチョロいな。
まぁ、あん時は本当に嬉しかったからなぁ...。
師範は、思い出し笑いをしている俺をチラッと見て、どこか遠くを見る。
すると師範は、時折見せる本当に悲しい顔を浮かべ、俯いた。
「私は、二人が羨ましいです。心が通じ合っていて、本音を言い合えて...」
羨ましい?俺達が?
驚いて師範を見ると、今の師範は、凄く小さくて、触れたら壊れてしまいそうなくらい、子供に見えた。
「鬼が居なければ、私も、───姉さんも...」
「師範...?」
「なんてね。冗談ですよ」
その笑った顔が、とても冗談とは思えなくて、なんだか胸が痛い。
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天の川(プロフ) - 5回目以上の読み返し。はぁ…最高すぎるわ…てか主さん主さん!カナヲは僕の嫁ですよ!!(真剣)(笑) (2022年2月28日 13時) (レス) id: 2d6957fece (このIDを非表示/違反報告)
ゆいな(プロフ) - うわあカナヲちゃん好きなので最高です!! (2020年8月14日 18時) (レス) id: ec54d11116 (このIDを非表示/違反報告)
レイン - 遅くなりましたが完結おめでとうございます!!幸くんの最後の台詞にやられました!幸くん、男前やん。もうものすごいにやにやしてましたw気持ち悪いぐらいにwお疲れ様です! (2020年5月28日 12時) (レス) id: 05e6c43b69 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃんちゃんこ - お疲れ様です!別垢見つけたら絶対に作品見ます!! (2020年4月28日 17時) (レス) id: cf6601d86b (このIDを非表示/違反報告)
かたつむり。(?)(プロフ) - 宙さん» 暖かいコメント、ありがとうございます‥‥。叩かれる覚悟で言ったのに、そんな優しい言葉をかけてくださり、本当にありがとうございます‥‥!涙出ます‥‥! (2020年4月27日 22時) (レス) id: 40246c291e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:かたつむり。(?) | 作成日時:2019年12月22日 8時