6話 力 ページ8
夕食を済まし、自分の部屋に戻ったAは、部屋にある小型テレビを虚ろな目で眺めている。
『Ωの女性に暴行したのは、真田正太郎容疑者、小野圭祐容疑者、高野艮太容疑者で_……』
「…死ね」
月の言った通り、コイツらは猿だ。
人間のくせに理性もなく、立場の弱い女性を…Ωを襲う猿以下の存在だ。どうせ、Ωだったら無罪になるからと襲ったのだろう。
こんなのは間違っている。誰かが、Ωの人権を作ってあげないといけないんだ。
「…あ、そういえば」
ふと、Aは思い出して、ソッと引き出しを開ける。そこには、大量のフェロモン抑制剤に紛れて、例の黒いノートが存在していた。
…勝手に無くなることは有り得ないのだが、ノートの形を確認し、Aは安堵のため息をもらす。
やることは決まっていた。
Aはノートを取り出すと、ペンを持ち、容疑者たちの名前をスラスラと書いていく。
「…よし」
そう、これはちょっとした出来心なのだ。
死ぬわけがない。だってこんなの、非現実的でしかないんだから。
テレビとノートを交互して、何度も3人の名前を確認する。
…確か、名前を書いた40秒後に心臓麻痺を起こして死ぬと、書かれていたのだが。
「………」
テレビに再び目を向けると、もう、次のニュースに変わっていた。
チッ、チッ、チッ、
時計の音が、静かな部屋に響きわたる。
36,37,38,39
「……40」
あっという間に40秒が経過する。
なのに、テレビは緊急速報すら流れず、いつものようにニュースが流れているだけだった。
「…ですよねー。っぷ、あは、ははははっ!
バカだ自分!こんなのに本気になっちゃって!」
緊張の糸が切れたかのように、Aは笑い出す。
Aは残念に思いつつも、実は内心ホッとしていた。
自分で書いておいてなんだが、本当に死んでしまったらどうしようなんて、心のどこかで思ってもいたのだ。
実にくだらない。…まあでも、少しの退屈しのぎにはなった。
私も、まだまだ子供って事だな。
「あーあ、もう風呂入ろ」
『緊急速報です!!
先ほど、Ωの女性に性的暴行を加えたとして逮捕された 真田正太郎容疑者、小野圭祐容疑者、高野艮太容疑者が、三人同時に心臓麻痺で死亡したことが確認されました!!』
「____……は??」
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作者名:あっきー | 作成日時:2019年5月1日 12時