２人の恋２

これから ページ5

【結弦】

練習中に１人、タブレットを操作する。

最近なんだか調子が悪い。
練習内容を変えていく必要があるかもしれないな。

１人で練習をするのも、そろそろ限界かもしれないなんてことを考える。




１２月中に解説の仕事を２本こなして自覚したことは、“まだまだ自分で滑っていたい”ということだ。

引退してもまだ俺は現役で通用する技術を持っている。

この技術を退化させたくない。

ここまで来るための血の滲むような努力の日々と、莫大な費用、周囲の協力。

俺１人が勝手に退化させていい技術じゃないし、まだまだそれを使ってファンに見せられる夢があるし、俺にしかできない世間への貢献もたくさんある。

今もトレーニングや氷上練習を緩めることなく継続しているのは、羽生結弦でいるためだ。

羽生結弦でいることの重圧で逃げたくなることもあったのに、引退したらまだ羽生結弦でいることを望むなんて、つくづくスケート中心の人生だと思うし、もうこれは運命だ。

そんな運命の中にいきなり恋が飛び込んできた。

引退したらそんなこともあるかもしれないと思ってたし、恋愛だってちゃんと考えて冷静に対処するつもりでいたのに。

Aさんは、あの人は何だか、俺の心をぶんぶん振り回す。

というより、今は振り回されていたいと思う俺がいる。

スケートと恋とこれからの仕事と。

今までに考えられなかった組み合わせを目の前にして、今後どうしていくのがベストなのか。

考えれば考えるほど、俺とAさんの行き着く先は１つしかないように思えてくるけど。

いくら何でも早すぎるその考えに、俺自身がストップをかけている状態だ。

いずれにせよそんなことを考えるほど、俺が彼女にベタ惚れなことは認めざるを得ない。

あの面白くてよくわからん彼女相手に悔しいけど…。

すっとぼけてる当の彼女はきっとそこまで考えてないだろうけどな。

今度の初デートは、どんなのになるんだろ。

彼女とならどこだって楽しいに違いないけど。

彼女は約束通り、俺に甘い時間をちゃんとくれるんだろうか。

甘い時間……、いやいやそんなの妄想してる場合じゃないだろ練習中だ！！


「おっし！やるか！」

幸せな雑念を振り払うかのように、首を回して背伸びをして、氷上へ戻っていく。

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