秋近し哀遠し

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「月に帰るって･･･宇宙人か何かに乗っ取られたの？」


「違う！かぐや姫！俺もうひとつの世界から来た「北山 宏光」なんだ･･･！」


そう強く訴えれば、藤ヶ谷の顔はみるみる険しくなっていった。



その険しさを解くために
経緯を話すと余計に眉根は寄っていき
最終的にはため息に変わっていた



「･･･だから、俺は元の世界に帰らないと。藤ヶ谷の気持ちには俺は応えちゃいけねーんだ。こんなに好きなのに…」


そう結論を出すと、険しかった藤ヶ谷の顔は緩くなり、柔らかく笑う



「大丈夫だよ。元の世界の俺もお前のこと大好きだから。だから、北山は何も考えずにただ愛されて受け止めてくれればいいよ」



･･･例え、戻ったとしても、
その世界の藤ヶ谷も俺を愛してくれるの？



なんて、なんて
幸せなことだろう


その言葉ひとつで
押し寄せていた不安が一気に解消された気がした


この世界でも
むこうの世界でも
俺はただひたすら
藤ヶ谷を愛していればいいんだ。


なんて、ストレートでわかりやすい。


もうたくさん「ドラマ」を作り考えすぎるのはやーめた！


マンガ家にだってなれなくてもいいや！


藤ヶ谷のお嫁さんになれるなら！



「安心した？」
「うん！」
「じゃあ、プレゼントでも見に行こうか」
「うん！って、藤ヶ谷用意してねーのかよ･･･藤ヶ谷が選んだものが欲しかったのに」



選んで欲しかったのになー、
なんて思ってたのに。
ちょっと残念


「･･･ホントはあるんだけど」
「え、なに？なに？みたい！」
「･･･いや、どうにもタイミングが悪くて」


差し出された小さなラッピングされた箱の中には


「･･･月のピアス」


さっきまで帰ると言っていた「月」のピアスが入っていた。
満月ではなく『三日月』だけど。



「……月が綺麗ですね」


俺がそう言うと


「死んでもいいわ」


藤ヶ谷はそう言って照れくさそうに笑った


例え月に帰っても
愛し続けてね


夏が終わっても。
哀しみなんてこの先何もないと言って



END
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