秋近し哀遠し

35 ページ35

『北山には、もっとお似合いの可愛い女の子がいるじゃん。』


可愛い、はお前基準なの？
お前はその子のこと可愛いと思ってんの？


「･････････」


何かイラついてきた


「ははっ。ミツ、眉根寄りすぎ」


玉森の声で瞼を開ける


浮かんできたのは


「気付いてるよ、ミツが誰を好きなのか。ミツ自身気付いたのは最近だろうけど」

「･･････誰のこと言って.....」

「ガヤでしょ？ミツ、ガヤの前だといつも声のトーン、ワンオクターブ高いもん」



藤ヶ谷だった。



「は？そんなわけ！」
「まぁ、ワンオクターブは嘘だけど。ミツが想いに気づく前から、ホントは俺気付いてた」


俺が藤ヶ谷のことを好きだと、玉森が気づいてた？
そんなハズは…！
だって、好きになったのは最近なのに。


「課外活動の時、ミツなんで転んだか覚えてる？」
「･･･え？」


何で･･･転んだか？
それはその･･･余所見して縁石につまづいて


･･･余所見って何を見てたんだっけ…


あ


「ガヤが偶然一緒だった他校の美女に告られてるのを見て転んだんだよ？」


そうだった
何故か動揺した俺は壁に向かって歩こうとしてたんだ


「ミツは自分の想いには気付いてないから丸め込もうとしてたのに。何で気づいちゃうかなー」


コッチの世界の俺も転んだんだ、
藤ヶ谷を見て。告られてる藤ヶ谷を見て


まだ大してあの頃は藤ヶ谷と話したりもしてなかったのに、気づけば追ってしまっていた
あいつを捕らえていた


「だからさ、この一週間は俺に全部ちょーだい？ミツの時間全部！諦めるからさ」


そう言って笑う玉森の笑顔は
クシャッとし、可愛くて
輝いていた


「ありがとう、玉森」


たま、ありがとう。


「おっし、一分一秒も無駄に出来ないからね！食べたら俺片付けるからドライヤーしてきて」
「え？いいよ。俺が片付けるし、もう乾いてきてるし」
「･･･その半乾きな感じがセクシーで目に毒なんです」
「･･･乾かします」


二人で笑い合う
玉子焼きは少し甘く少し塩っぱかった。


ベーコンの塩味が効いて調和していた


玉森の好きなところ、
いつも自然体なところ。
その素質は誰にも真似出来ない唯一無二のチャーミングポイントだと思う


玉森になりたいなーって
正直何度も思ったことがあるぐらい



朝食を終えると俺はドライヤーそして
玉は片付けをしてくれて
終わったあと日が暮れるまで夢中でゲームに明け暮れた。
そんな高二の夏の終わり、最高だと心から思った

36→←34

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す