雨の後には(wtnb) ページ25
「お疲れ様でした！」
ニコニコ笑って挨拶をして、元気な“こうちゃん”はここまで。
「はあ、雨か」
まるで俺の心の中を表しているかのような土砂降りの雨にため息をついて歩きだす。傘なんて持ってきてないし、駅までなら歩こうが走ろうが雨に打たれるのは変わらない。
「ちょっ、こうちゃん！？なにしてんの！？」
「え、、ああ、Aさんか」
急に雨が当たらなくなったな、と思えば俺の頭上に傘が差し出されていた。感傷に浸っている時に優しくされると、逆に辛くなるのは何でだろう？
「こうちゃん？」
「すみませんっ、何でもないです」
いきなり顔を抑えてしゃがみこんだら周りの迷惑にもなるだろう。でも、そんなことに気が回らない程に俺は俺のことで精一杯なんだ。
「オフィス近いし、戻ろうか」
Aさんに手を引かれて、まるで子どもみたいに泣きじゃくる俺はきっと彼女の傘のおかげで他の人から見られることはないのだろう。
「コーヒーでもいれてくるね、待ってて」
執務室ではなく、真っ先に会議室に入れてくれて、タオルをすっぽりと頭から掛けられて一瞬でも俺のことを見ないようにしてくれた。
やっと涙が止まった頃、見計らったのかAさんが入ってきた。俺を見るとやわらかな笑顔を浮かべた。
「テーブルに置いておくから落ち着いたら飲んでね」
「、、あの、」
「ん？なに？」
「聞かないんですか？」
「こうちゃんが話したいなら聞くけど、誰だって泣きたくなる時はあるものだよ」
私もここでコーヒー飲もう、と自分のカップを手にしたAさんは少し離れた場所に座った。何があったか聞くわけでもなく、ただ黙ってコーヒーを飲んでいるだけ。
「俺少し前にフラれちゃって。全然平気だと思っていたのに、時間が経つにつれて色んな思い出がぶわって溢れてきて、っ、、思っていた以上に彼女のこと好き、だったんだなって、独りになるとっ、」
止まったはずの涙がまた溢れだす。忘れようと思っても忘れられなくて、と言葉が上手く紡ぎ出せないのにAさんは黙って聞いてくれる。
今すぐにでも会いたい。会いたいけど、俺にはもう、会いに行くなんて資格はない。
「悲しいことも、楽しいことも、全部大切な思い出だから忘れることないよ」
「でもっ、」
「悲しい涙はきっと、絶対に晴れる。虹のような笑顔のこうちゃんが私は好きだよ？」
「え、？」
「んふふ、ほら止んだでしょ？」
窓の外には綺麗な虹が架かっていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 502人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
柊 - 亜杞さん» 分かります…！唐突に頭の中にメロディー流れてくるんですよね…私もまさかここで目にするとは思ってもいませんでした…あれをつかってこんな素晴らしい作品が書ける亜杞さんこそあんたすげーよ！(です！！) (2022年6月21日 18時) (
レス) id: c57341bca6 (このIDを非表示/違反報告)
亜杞(プロフ) - 柊さん» 正解TMYです！私未だに口ずさみたくなっちゃうんですよね。まさかご存知の方がいらっしゃるとは……柊さん、あんたすげーよ！(これが言いたいが為にレス書き直しました) (2022年6月19日 23時) (レス) id: 892b969d86 (このIDを非表示/違反報告)
柊 - 焼きそばの校歌ってTMYですか…？間違ってたらすみません…気づいて少し懐かしくなりました (2022年6月19日 18時) (レス) @page34 id: c57341bca6 (このIDを非表示/違反報告)
亜杞(プロフ) - akiakiさん» 身に余るお言葉ばかり恐縮です。ありがとうございます！策士なfkrさん書きたがりなので楽しんで頂けると嬉しいです。過去作も新作の方もよろしくお願いいたします。 (2022年4月17日 14時) (レス) id: 892b969d86 (このIDを非表示/違反報告)
akiaki(プロフ) - 読んでる途中ですがもうこのお話たちが好きすぎて､､､色合わせのfkrさん、自分のものじゃん！策士〜！その方らしさを出しながら､素敵なお話を書かれていて尊敬します。これからも楽しませていただきます！ (2022年4月17日 10時) (レス) @page46 id: aa9a6e18cc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：亜杞
| 作者ホームページ：
作成日時：2021年1月14日 20時
