悪魔の囁き(nb) ページ10
きっかけは何だっただろうか。
「ノブ！」
「Aさん、お待たせしました」
月に１度だけデートをする、それが俺たちの関係。
俺が知ってるのはAさんという名前と年齢が俺より10歳上というだけ。
「今日も23時までですか？」
「うん。シンデレラは0時を超えられないからね」
「だったら昼間に会えばいいのに」
「ノブも私も昼間は忙しいでしょ？」
まだ学生の俺は確かに昼間忙しい。動画の編集もある。だけどAさんは？Aさんは、何をしてる？仕事？そういえば仕事の話は聞いたことがない。
「今日はイタリアン予約したんだー」
語尾に音符が付きそうなAさんの隣を歩く。微妙な距離感はリンゴ１個分、腕を組むことも手を繋ぐこともなく、ただ淡々と歩くAさんに付いていくだけ。
「ノブはお酒飲む？」
「いや、今日はやめとく」
「そう？じゃあ私だけ飲んじゃおっと」
端から見る俺らはカップルに見えるのだろうか。それとも姉弟？あるいは後輩と先輩…どれにも当てはまらないことに気付くとどうしようもない焦燥感にかられる。
「Aさん、」
「ん？なあに？」
グラスワインを上品に飲む彼女は一体、
「Aさんって俺の“なに”？」
「オトモダチ？あ！彼女って言ってほしい？」
「俺は真面目に聞いてんの」
「あれー？なんか怒ってる？」
何が楽しいかわからないけど笑っているAさんに嫌悪感。この関係性が嫌なわけじゃないのに答えを明確にしたいのは俺が東大生が故か。
「Aさんは何をしてる人？仕事は？」
「仕事はしてない」
「は？だっていつも、」
「いつもご馳走してるから無職で心配した？お金はあるよ、私の旦那様が優秀な弁護士さんだから」
「け、結婚してたの？」
嘘だろ？じゃあ俺は…
「バッチリ不貞行為だね。まあ食事してるだけだけど」
「最低じゃん」
「あはは、聞かなかったら慰謝料も取られないで済むのにノブが聞いてくるから」
またグラスワインを飲むAさんを黙って見つめる。そりゃそうか、こんな綺麗な人に相手が居ないとなんで思っていたんだろうか。
「さて、どうする？」
「え？」
「私が結婚していると知った上で来月また会う？それとも今日でやめる？それとも、このまま明日を迎えてみる？」
「俺がどの選択肢を選んでもAさんが最低なのは変わらないよね」
「んふふ、そんな私は嫌い？」
「嫌いって言えたら楽なんだろうね」
続く (更新停止中)
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作者名：亜杞
| 作者ホームページ：
作成日時：2023年6月3日 18時
