デート？(izw) ページ9
「今度一緒にご飯でも、」
「ごめんなさい」
「またですか？」
私にパートナーが居ることは彼も知っている。それでもご飯に誘ってくるのは一体どういう神経しているんだか。
何度か仕事を一緒にして同年代であるから雑談にも花が咲いた、でもそれだけ。たったそれだけ。友人と呼べる程親しくはないけど全くの他人と言える程遠くはない。つまるところ“知人”という括りがしっくりくる。
「そういえばこの間見た動画が面白くて…」
彼と話すのは楽しい。面白いとも思う。だから話す度にまた会いたい、話したい、そう思ってしまう。ダメだとわかっているのに惹かれていく自分に見て見ぬフリをするのも限界になってきた。
「今度の金曜日、」
「へ？」
「今度の金曜日なら、昼間なら時間作れますよ」
「それは、俺へのお誘いってことで良いんですよね？」
じゃあ午後2時に待ち合わせで、なんて約束を取り付けてしまって後悔。何をしているんだろう。パートナーを裏切るようなことを…いや、別に私は彼を好きではないし、彼もまたそうだろう。つまり“好き”という感情はないのだからこれはただの食事会であって…
「デートですね」
「違います」
「ええ！？違うの？」
ほらまた。たまに見せるくしゃりとした人懐っこさのある笑みは彼の武器で私の弱点。その笑顔と巧みな話術があれば相手なんて選り取りみどりだろうに。
「伊沢さんてバカですか？」
「んー、一応インテリを売りにしてますけど？」
「対人間関係、特に女性に対してはインテリじゃなさそう」
「そうですね。１番苦手ジャンルかもしれない」
「私にはパートナーが居ます」
「知ってますよ？」
「そんな私を誘うとか、」
「でも、誘いに乗ってくれた。これは俺にとって誤算で嬉しい収穫です」
「はい？」
「だって、ほんの少しでも俺に興味を持ってくれたわけでしょ？だったら俺はガンガン攻めるだけなんで」
じゃあまた、と笑って背を向けた彼にため息をつく。
「あ、パートナーさんにバレないように気を付けてくださいね？まあ俺としてはチャンスなんでバレても困りませんが」
私の弱点なんて彼にはもうバレバレなんだろうな。
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作者名：亜杞
| 作者ホームページ：
作成日時：2023年6月3日 18時
