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「こんな時間にすみません」
「いえいえ、ふくらさんもお忙しいでしょうから」
「もし時間あれば一杯どうです？あ、旦那さんが待ってるか」
「…残念ながら旦那はまだ帰らなくて」
何時に帰るかもわからない、帰ってくる保証もない、なんて言えば優しい彼は眉間にシワをよせる。１人寂しく自分の作った料理を食べるのは虚しいからこっちからお願い、と近くの居酒屋へ入った。
最初は少し堅かった雰囲気もお酒が進めば幾分マシになる。私の愚痴に付き合ってもらっているうちに堅苦しい雰囲気は砕けた、という表現の方が合っているかも。
「あーもう無理。私捨てられちゃうかも」
「なんでそんな人と結婚したの」
「だって、この人を逃したら結婚出来ないかもって」
「そんな理由？めちゃくちゃださいじゃん」
「ふくらさん冷たい」
敬語を外したのはふくらさんに言われたから。クイズ友達として話そうよ、ってところから旦那と出会った経緯や最近の話をしたら辛辣な言葉が返ってきた。
あれ、ふくらさんってこんな人だった？
「Aさんも浮気したらいいじゃん」
「…へ？」
「旦那さんもしてるんだから怒られる筋合いないわけだし」
「いやいや、いくら酔っててもそれはしちゃいけないって理性は残ってるよ？」
「じゃあ、理性もなくしちゃえばいいじゃん」
にこ、と笑っているはずのふくらさんから目が離せない。
蛇に睨まれた蛙と表現する方が正しいだろうか。
「ね、俺と浮気してみる？」
「ん…ちょっと待って」
「待たない。ここまで来てお預けはないでしょ」
ねえ、と耳に響く低い声は催眠術のようで頭がくらくらする。ネオンきらめくホテルに入ってしまったら逃げ場はない。
というか逃げるって考えは持っていない。高まり続ける胸の鼓動がこの行為を応援しているみたい、なんて。冷静に考えたらバカなことしてるってわかっているのに。
「A？」
「っ！ふくらさ、ん」
「これは同意って捉えてもいいよね？」
突如降ってきた甘いキスを受け入れてベッドになだれ込む。なんだかんだ理由をつけて夫ともしていなかったから久しぶりのこの行為に少し不安感。
「まだ緊張してる？」
「…してる。酔いも冷めちゃったし、不安」
「浮気がバレるのが？」
「それもだし、最近その、ないから」
「それならちゃんと俺色に染めてあげる」
意外と男っぽいところあるんだな、なんて考えられたのは一瞬だけだった。
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作者名：亜杞
| 作者ホームページ：
作成日時：2023年6月3日 18時
