第三百五十三話 キューピット ページ38
「 ああ…ドアをノックされるが、誰もいないそうだ。」
「 ふうん… 」
吾郎はスマホを取り出す。つまらなさげに画面をスクロールさせた数秒後、彼は自分の考えを述べた。
「 一つ仮説がある。今 ミカさんのSNSをざっと見たんだけど動物好きなようだね。数ヶ月前の巣から落ちたカラスの雛を助けたという投稿もある。」
「 そうなんだよ！すごく懐いて挨拶してくれるって！」
「 金属部品などキラキラしたものは彼らの嗜好に合うし、人に懐いたカラスが宝物を贈る習性は確認されている。それにピアスのキャッチの部分にごく微量ながら糞らしきものが付着しているよ。」
カラスの仕業。考えもしなかったが、そうだとすれば全ての事象に説明がつく。ドアをノックされるが誰もいないというのも
「 ミカさんはストーカーだと警戒しているから、
「 その通り。たとえ視界に入っていたとしても、犯人を人間だと思い込んでいたら認識されない可能性もある。」
たった数分でここまで情報をまとめる彼が 本当にすごいと思った。高校生探偵と言われるだけの手腕。彼はこの頭脳で沢山の人々を助けているのだろう。そう考えると、いつも素敵な彼がもっと素敵な人に思えてくる。
「 惚れ直したかぁ？」
「 うん…本当に格好いい、って！」
べしっと私はからかってくる竜司を叩いた。隙あらば 彼はいつもこうして私のことを面白がってくる。別にそれは 竜司に限ったことではないけれど。
「 はは、で どうなんだい？」
「 吾郎まで…！？」
本当に意地悪な人だ。
私がちゃんと答えるまで彼は引かないだろう。
なら、ハッキリと言ってあげよう。
「 …ずっと惚れてるけど、前よりもっと格好いいなって思った。って、なんでこんな恥ずかしいこと言わせるの！」
「 ごめんごめん。満足したよ。」
二人だけの雰囲気が出来上がっていた。その様子をニマニマしながら怪盗団は眺めている。
「 すっげー、探偵王子を照れさせたぞ。
やるな！A。」
「 竜司、ナイスキューピット！」
「 竜司が…っ、キューピット…っ！」
「 おい。笑ってんじゃねー！」
◇◇◇
その数十分後、彼が奇跡を起こした。
「 HIT！！」
蓮のルアーに大物が食いついた。釣り堀を堂々と泳ぐ姿、引き締まった身体。市ヶ谷のヌシのお出ましだった。
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作者名：すみれ | 作成日時：2023年7月17日 20時
