第五百五十二話 強情 ページ48
「この世界は、認められない」
丸喜は心底驚いた顔をした。空いた口が塞がらないといった様子だ。よっぽど自分の創った現実に自信を持っていたようだった。
「私たちの出会いや苦悩は、誰にも歪ませたりなんかしない」
全て今の自分らを形づくる大切な記憶だ。喜び苦しみも、時に感じた憎しみも。全てが大切な宝物。何一つ欠けてはいけない、とリティはこの世界で過ごす仲間の姿を見て強く感じた。
「交渉決裂、ですね」
「…君たちとはまだ分かり合えないんだね」
まだ、という言葉に彼の諦めの悪さが見え隠れしている。リティは自然と眉間に皺を寄せてしまう。そういう所は自分に似ている。そう感じてしまって。
「う…そ…」
「すみれちゃん…!?」
虚ろな目をした彼女がゆっくりと立ち上がった。顔は青ざめ、唇を小刻みに震わせている。絶望とも言えるような感情を彼女から感じた。
「嘘、ですよね?お願い、先輩…私を、『かすみ』でいさせてください!」
「…それはできないよ」
「なんでッ!!こんなにツラいのに、それでも逃げちゃいけないんですか!?」
ふるふると首を横に振る。リティはそこを否定する気は更々なかった。逃げという言葉は悪い意味として捉えられがちだが、自分の心を守るための大事な行動であると彼女は解釈している。それは彼女自身がその人生の中で何度も『逃げ』という手を使ってきたことがあるからこそであった。
「『逃げ』は否定しないよ。でも…」
「かすみは私のせいで、すみれのせいでもういないんです。そんな、かすみを死なせたすみれには…戻れない!」
彼女に声は届かなかった。姉への罪悪感から湧き出る意志が彼女の姿を変える。皮肉だが彼女は『すみれには戻れない』という意志を強く心に宿しているようだ。
「お願い…邪魔をしないで。でないと、私は…!」
「やめておけ」
剣先をリティらへと向けるすみれをジョーカーが制止する。だが、興奮状態であり自分を守ることに精一杯な彼女にはそれを聞き入れる余裕はないようだった。
「強情だな。これ以上口で言ったって分からないだろうし、やるしかないんじゃない」
「…対話は、諦めたくないな」
クロウの目がちらりとこちらを捉えた。ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向かれる。「そういえばこっちも強情だったな」そんな彼の声が聞こえた気がした。
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すみれ(プロフ) - すしをさん» いつも本当にありがとうございます🥹なんて素敵な自分ルールなのでしょう。すしをさんに早く見ていただけるように更新頑張りますね!いつもコメントに元気貰ってます。またいつでも優しいお言葉をお待ちしています🥰 (2月18日 21時) (レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
すしを(プロフ) - 三学期だ〜!!すみれさんのお話は少し間を空けてから一気見するという自分ルールに縛られ(?)中々最後まで見られていませんでしたが、やはり素敵だ…。無理のない範囲での更新心よりお待ちしております (2月18日 1時) (レス) id: 83df5084ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すみれ | 作成日時:2024年1月10日 17時