第五百三十七話 強さだけじゃない ページ33
Aは家に帰ると、残す三人への声の掛け方について考えあぐねていた。彼女らの願いについては話からして察しがついている。だが、彼女たちに大事な人を失うことを受け入れろ。なんてことを自分が言えるとは思えなかった。
___だってきっと、私が同じ状況に陥ってしまったら、手放せないから。
お風呂に入って、今はリビングに姿がない彼について考える。彼を失ったら、なんて想像はもうしたくない。それほどまでに大事な人を失う、ということは怖いことで二度と経験したくないことなのだ。
「…はぁ」
ため息をつきながら、スマホを取り出しAは電話をかける。数コールもすればその人物は電話に出てくれ、「どうしたんだ」と柔らかい声色で話しかけてくれる。
「蓮、ちょっと話がしたくて」
『いいよ、何?』
「……私たちがしている行動が、間違ってるとは思わないの。でも、怖くて」
『怖い?』
電話越しだがこくりと頷く。言語化することで顕になる自分の気持ち。Aはその気持ちの行く先を探している。
「この世界を受け入れたくない。それは本当。でも、みんなに幸せになってもらいたいっていうのも本当なの」
『…うん』
「正しいことだとは頭でわかってても、結果的にみんなの幸せを奪ってしまうってことが私は怖い。みんなの笑顔が、なくなってしまうことが…」
息遣いが荒くなる。想像するだけでその胸に襲いかかる恐怖心。Aは自分自身のことを弱いと形容し、そんな自分はこの罪悪感から抜け出せないと、もがき苦しんでいる。
『A、落ち着け』
「ご、ごめんね。取り乱しちゃって」
___私はいつまで弱いままなんだろう。
『…俺も、怖いよ』
「…え?蓮も…?」
『仲間の笑顔を見て、これでいいんじゃないかって思う気持ちは少なからずある。俺は明智みたいに、丸喜のこの世界を完全に否定することはできてない』
「そう、だったんだ…」
彼が自分と少し似た考えを持っている、ということにホッと安堵する。いつも強いと思っている彼でもそう思うんだ、と自分だけではないんだ、と安心させてくれる。
___だから、蓮にはなんでも話せてしまうのかも。
彼が持っているのは強さだけではないから。もちろん他の人だってそうだって、わかってはいる。だが、他の人ではこうはならないと思う。彼なら、彼だから、この気持ちをどうにかしてくれるって強い信頼がある。
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すみれ(プロフ) - すしをさん» いつも本当にありがとうございます🥹なんて素敵な自分ルールなのでしょう。すしをさんに早く見ていただけるように更新頑張りますね!いつもコメントに元気貰ってます。またいつでも優しいお言葉をお待ちしています🥰 (2月18日 21時) (レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
すしを(プロフ) - 三学期だ〜!!すみれさんのお話は少し間を空けてから一気見するという自分ルールに縛られ(?)中々最後まで見られていませんでしたが、やはり素敵だ…。無理のない範囲での更新心よりお待ちしております (2月18日 1時) (レス) id: 83df5084ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すみれ | 作成日時:2024年1月10日 17時