第五百十九話 無慈悲な現実 ページ15
「現に芳澤さんも、忘れていた過去に触れる度に苦しんでる」
「過去…?丸喜先生…過去ってなんなんですか!私は、何があったんですか…!」
「…わかった。本当は、さっきまでの『警告』で済めば良かったんだけど…望むなら、一度思い出してほしい。君が何者なのかを」
それはかすみにとって、彼女にとって良くないものであるような気がした。
「そして、君たちにも知ってほしいんだ。知ったうえで、選んでくれないか。無慈悲な現実と僕の現実…そのいずれかを」
彼が指を鳴らすと、パレス内の電灯が消える。まるで映画館のようだ。砂嵐になっていた大きなスクリーンに映像が映る。とある少女の視点で描かれた、日常のワンシーンのような映像だ。
激しく雨が降っている。リティが体験している視点の人物は、斜め前にいる少女のことをぼうっと見つめていた。
「今日も疲れたね。…あ、具合悪い?」
小さく首を横に振って、その言葉を否定する。声色を聞くだけで彼女は深く落ち込んでいるんだと感じた。その視野が地面へと向けられる。
「なんで私、ダメなんだろう。今日も失敗ばっかだったし…」
「急に背が伸びて視点が変わったからだって。すぐ慣れるよ。ほら、もう私と変わんないよ?」
「同じくらい練習してるんだけどな」
彼女の落ち込んだ言葉を聞いても明るく振舞っていた少女は「あ…」と声を漏らす。慰めの言葉では、この女の子の心を癒すことはおろか、明るい方へ持っていくこともできない。
「優勝するのは、いつもかすみだけ。私、全然…追いつけない」
「それはね、私の方がお姉ちゃんだからです!」
「『同級生きょうだい』じゃん…」
「マジに返さないでよ」
かすみと呼ばれた少女は背を向ける。この視点の人物にとって、かすみという人物は実際よりも大きく見えていたらしい。その背中は年相応に華奢なはずなのに、この世の何よりも大きな脅威のように思える。
「2人で世界を獲るんだよ?私たちの夢」
「……かすみには、私の気持ちなんか、わかんないよ」
その瞬間、初めて声の主である少女が映された。赤寄りの茶髪を下ろし、眼鏡をかけた大人しい印象の少女。かすみと呼ばれた、表情がころころ変わるポニーテールの少女とはまるで正反対の女の子。
「え…?」
かすみを無視して、少女は歩みを進める。フラッシュバックのようにその場面が流れる。
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すみれ(プロフ) - すしをさん» いつも本当にありがとうございます🥹なんて素敵な自分ルールなのでしょう。すしをさんに早く見ていただけるように更新頑張りますね!いつもコメントに元気貰ってます。またいつでも優しいお言葉をお待ちしています🥰 (2月18日 21時) (レス) id: 945d36a3b1 (このIDを非表示/違反報告)
すしを(プロフ) - 三学期だ〜!!すみれさんのお話は少し間を空けてから一気見するという自分ルールに縛られ(?)中々最後まで見られていませんでしたが、やはり素敵だ…。無理のない範囲での更新心よりお待ちしております (2月18日 1時) (レス) id: 83df5084ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すみれ | 作成日時:2024年1月10日 17時