JUMPの闘病生活。5 (ページ44)

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勝負１ページ44

伊野尾先生サイド

「帰ったら、侑李の頭撫でてやってよ」

大ちゃんに言われたその言葉の意味がわからないまま、家の前まで来た。

伊野尾先生「ただいま……」

返事はないし、電気もついていない。

さすがにもう寝ているか。

お風呂に入って着替え、ソファで寝転んでいると、侑李の部屋から洟をすするような音が聞こえた。

泣いてる、のかな？

俺は、侑李の部屋のドアに耳をくっつける。

侑李「んっく、……ひっ……う……」

やはり泣いているようだ。

伊野尾先生「侑李、入るよ」

侑李の部屋に足を踏み入れると、布団がモゾモゾと動いた。

伊野尾先生「侑李。布団の中にいたら暑苦しいでしょ？」

侑李「いの、っく、ちゃん、せんせ……」

パッと布団をめくると、侑李は両手で口を押さえ、声を
押し殺した。

ときどきしゃくりあげながらも深呼吸をして、泣き止もうとしているように見えた。

伊野尾先生「辛かったな。ごめん、俺がもっと侑李と一緒にいれたらいいのにな」

侑李には、我慢させてばかりだった。

『ねぇ、いつでもいいからどこか行こう。ダメ？』

『今日早く帰ってこれる？』

最初のうちはほとんど毎日訊かれていたのに、今では全く訊いてこなくなった。

それはきっと、俺の答えの多くが『ごめん、無理かも』だったからなのだろう。

もっと、無理してまでも、『いいよ』って言ってあげられたら、少しは楽になれたのかもしれない。

ウサギのように〝独り〟が嫌いな寂しがり屋。

侑李がそうであることを知っていたのに、俺は、侑李を〝独り〟にした。

侑李「先生は、忙しい、から……」

伊野尾先生「仕事とか、俺の都合を何も考えないで、甘えてよ。涼介に言うみたいに、本当のこと教えて？」

侑李「……でき、ないよ」

涼介には言えるけど、俺には言えない。

侑李は、俺のことを〝家族〟だと思っていなかったんだ。

涼介は本当の家族。俺は嘘の家族。

「嘘」の俺が、「本当」の涼介に敵うわけがない。

主治医で義理の父親。

侑李が現実を受け止められないのも無理はない。

俺が侑李と同じ状況になったら、俺は自ら〝独り〟になる。

主治医ってだけの昔の俺だったら、もしかしたら、侑李は俺に全てを話してくれたのかもしれない。