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光と闇 ページ34

涼介サイド

目覚めは最悪だった。

真っ白な視界の中、だるい体を起こす。

その瞬間、腰やお腹に激痛が走って、ナースコールを押した。

「ちょっと待ってな」という伊野尾先生の声が聞こえた。

10秒ほど目を閉じてから、ゆっくりと瞼をあげる。

視界はまだぼやけるけど、さっきより大分良くなった。

周りを見回すと、ベッドの隣の机に苺のショートケーキが置いてあることに気付いた。

侑李が置いてってくれたのかな……。

ぼーっとする頭で考える。

そうだといいな、と思ったとき、ノックの音と「入るよ」という声が聞こえた。

俺が返事をするより先に扉が開き、肩を上げ下げして呼吸をする伊野尾先生が病室に入ってきた。

伊野尾先生「良かった。涼介。平気か?」

涼介「痛み止め、入れてくれない?」

伊野尾先生「うん、わかった。えっと、輸血もした方がいい?」

涼介「うん」

伊野尾先生は、笑顔で手際よく点滴にパックを繋ぐ。

涼介「伊野尾先生、これ、侑李が置いてってくれたの?」

伊野尾先生は「そーだよ、侑李ね、自分のお小遣いで買ってた」と嬉しそうに話す。

涼介「お礼言わないとな。それと、ちゃんと謝らなきゃ」

伊野尾先生「侑李、喜ぶぞ? 涼介が起きてるって知ったら。……薬、あとちょっとで効いてくると思うから、それまで休んでな」

俺は伊野尾先生に言われた通り、ベッドの背もたれに全体重をかけて目をつむる。

伊野尾先生は「なんかあったら呼んでね」と言って、病室を出た。

瞼を下ろして、ほんのり暖かい布団をかぶっていると、だんだん眠たくなってくる。

俺は、眠ってしまう前に、ショートケーキの苺をつまんで食べた。

涼介「おいしい」

一粒の苺をしっかりと噛み締めてから、俺は眠りに落ちた。







次に目を開けたとき、俺の瞳には侑李が映った。

涼介「ゆう、りぃ?」

侑李「あ、起きたんだ。涼介」

俺が名前を呼んだのと同時に振り向いた侑李の頬には、涙を伝った跡があった。

涼介「どうしたの? 大丈夫?」

侑李「大丈夫だよ、なんでもない。ごめんね」

そう泣きながら謝る侑李の頭を撫でてやりたかった。

俺がいるからね、って抱き締めてやりたかった。

でも、今の俺には届かない。

侑李は窓から外の景色を眺めていたから、侑李が俺の隣まで来てくれないと、何もしてやれない。

まだ腰にわだかまる鈍痛のせいで、立ち上がれなかったのだ。

涼介「侑李、泣かないで?」

俺がそう言うと、侑李は無理やり笑った。

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作者名:J | 作成日時:2020年5月20日 11時

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