母親の記憶 ページ19
涼介サイド
セミの声で、目を覚ました。
侑李はいつの間にかベッドに戻って寝ていたし、裕翔くんも眠っていた。
侑李は、この記憶はないのかな。
まだ知らないのかな。
ずっと侑李のことを考えていた。
侑李は、母親のことを知っているのに知らないふりをしているのか、本当になんの記憶もないのか。
記憶がないのなら、そのままでいいと思った。
むしろ、知らない方が幸せなのだと。
俺が侑李を守らなくちゃ。
侑李の寝顔を見て、そう決心した。
裕翔「あれ？ 涼介くん起きてたんだ。おはよう」
突然裕翔くんに声をかけられて、体がビクッとなった。
涼介「おはよう」
裕翔「侑李くん、まだ寝てるね」
涼介「侑李、朝起きるの遅いから。早いときはすごい早いんだけど」
裕翔「へー、そうなんだ」
涼介「あのさ、涼介と侑李でいいよ。くんづけ、あまりされたことないから」
裕翔「じゃあ俺も裕翔でいいよ」
涼介「うん、ありがとう」
裕翔「なんでありがとうなの？」
涼介「なんとなく、かな」
裕翔「涼介く…………涼介って面白いよね」
涼介くんと言いそうになったのがわかったから、思わず笑ってしまう。
それにつられたように、裕翔も笑った。
コンコンっと、ドアがノックされた。
侑李がまだ寝ているから返事はせずに、俺はドアを開けに行く。
ドアを開けると、裕翔のお母さんが立っていた。
裕翔のお母さんは俺を見て一瞬ビックリしていたけど、すぐにお辞儀をして「おはよう」と言った。
俺も「おはようございます」と返すと、裕翔のお母さんはニコッと笑った。
頭の中で優しかった頃の母さんの笑顔が再生されたけど、すぐに振り払った。
裕翔「どうしたの？」
裕翔はお母さんを見て、冷たい声でそう言った。
裕翔・母「着替えと……お菓子とか、持ってきたよ。みんなで食べて」
裕翔「うん」
裕翔・母「先生の許可はとってあるから」
すると、裕翔のお母さんは俺の方に向かって歩いてきた。
裕翔・母「涼介くん、かな？」
涼介「涼介です。寝てる方が、侑李」
裕翔・母「双子なんだよね？ 八乙女先生から聞いたよ。２人の許可もとってあるから、遠慮せず食べてね。あと、侑李くんにもよろしく言っといてくれる？」
涼介「はい、ありがとうございます」
裕翔・母「それじゃあね」
裕翔のお母さんは、そう言って部屋を出た。
いい人っぽいけど、ほんとはそうじゃないのかな。
この人のもとに生まれていたら、幸せだったのかな――――――
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作者名：J | 作成日時：2020年3月15日 20時
