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母親の記憶 ページ20

侑李サイド

なんか、いいにおいがする。

何のにおいか気になったから、目を開けた。

涼介「あっ、やっぱ起きた。おはよう」

裕翔「ほんとだ。おはよう」

なぜか2人がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべているから、僕は首をかしげた。

涼介「裕翔のお母さんが、これくれた」

侑李「裕翔?」

涼介「お互い呼び捨てで」

侑李「え? あぁ……」

涼介「これ見てよ、ポテチだよ」

侑李「おー!」

もう封が開いていて、中身は少し減っていた。

これのにおいだったのかと、心の中で呟いた。

昨日、夜遅くに泣いていた涼介の目は微妙に腫れていたけど、嬉しそうに笑顔で食べているから、裕翔くんにはばれてないかな。

そういえば、裕翔って呼ぶんだっけ。

裕翔を見ると、嬉しそうな涼介に少しビックリしているような感じがする。

僕たちはただのポテチでも、すごくうれしいんだ。

病院だとあまり食べられないから、ゲームをもらうよりうれしいの。

侑李「ポテチー」

裕翔「侑李も食べなよ。いっぱいあるから」

侑李「わーい、ありがとぉ」

ポテチを一口頬張ると、滅多に食べられない味を噛み締めた。

侑李「おいしー、ありがと!」

裕翔「俺じゃなくて母さんに言ってよ」

侑李「うん、言うよ、今度あったら」

伝えとくよって言わないところがまた、距離を感じた。

裕翔「涼介? 大丈夫?」

裕翔の声を聞いて、僕も涼介を見る。

涼介は遠くをボーッと見つめていて気づいていないようだったから、「涼介?」と今度は僕が呼んだ。

涼介は慌てて振り返ると、「大丈夫だよ、なんでもないから」と言った。

なんかおかしい。

だけど、体調が悪いときに僕に隠そうとする、あやしさがない。

――――――――ガラガラガラ

ノックもせずにいきなりドアが開いた。

僕たちはドアに視線を送る。

そこにいたのは、大ちゃん先生だった。

涼介「有岡先生、ノックしなよ」

有岡先生「いや、廊下を歩いていたらさ、いいにおいがしたんだよ。なんか、お菓子のにおいがさ。だから、ちょっと……」

侑李「ちょっと、なに?」

有岡先生「来ちゃいました」

なんでだよ、と心の中でつっこむ。

涼介「この嗅覚がエグい先生、院内学級の有岡大貴っていう先生ね」

裕翔「よろしくお願いします」

有岡先生「こちらこそ、よろしくお願いします」

丁寧な挨拶をしている2人の横で、涼介が悲しそうな目をして座っていた。

やっぱりおかしい。

そう思ったけど、あえて言わないでおいた。

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作者名:J | 作成日時:2020年3月15日 20時

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