残酷な運命 ページ40
八乙女先生サイド
慢性骨髄性白血病は、化学療法によりかなりの高率で治すことができる。
その時期に、血縁者をドナーとして骨髄移植を行えば、80%の確率で完治する。
でも、ドナーが血縁者じゃなかった場合は、治療による長期生存率は60%まで低下する。
そして、移植を行う前に患者は大量の抗がん剤と放射線照射に耐えなければならないのだ。
圭人の血縁者にドナーが見つからなかった以上、移植は行わずに経過観察をするという判断は妥当だったはずだ。
投薬さえ続けていれば、90%に近い患者が5年後も特に病状が悪化することなく、普通の生活を送れるのだから。
しかし――
圭人は、残りの10%に入ってしまった。
そして、急性転化期に入るのが、移植よりも先だった。
6種類もあるHLAがすべてそろうのは、数万から数十万分の1程度の確率。
もう、手遅れだ。
医師としての経験が、そう語っていた。
涼介と侑李に、伝えるべきなのか。
何度も迷って、たくさん考えた。
本当のことを伝えるという判断は、その結果だった。
涼介と侑李なら、乗り越えられるのではないか。
そんな期待が、俺の中でうまれていた。
でも、やっぱり、圭人を見た2人は、恐怖に怯えた顔をしていた。
肩は細かく震えていたし、声だっていつもより細く、かすれていて、弱々しかった。
それでも、2人は乗り越えようとしていた。
侑李「……あと、どれくらい?」
八乙女先生「わかんない。明日かもしれないし、1ヶ月持つかもしれない」
侑李「そっか。また、来ても、いい?」
八乙女先生「いいよ。先生たちに言えば、たぶんみんなICUに入れてくれるから」
涼介「明日も、来ていい?」
八乙女先生「うん、いいよ。今日はもう、帰ろっか」
涼介と侑李は、こくっとうなずいた。
2人は、逃げなかった。
侑李は、あとどれくらい生きられるのかを聞いてきたし、涼介は、明日も来ようとしていた。
現実を受け入れて、今自分ができる、ベストを尽くそうとしていた。
そんな2人に、少しだけ尊敬してしまう。
2人が強いからこそ、心配だった。
残酷な運命に、残酷な現実に押し潰されたとき、立ち直れるのだろうか。
その強さが傷つけられたとき、弱さを見せられない2人は、壊れてしまうのではないか。
胸のなかに膨らむ不安は、大きくなるばかりだった。
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作者名:J | 作成日時:2020年3月15日 20時