第7話。 ページ8
「この本はどこですか?」
「それは、2番目の本棚の17番です」
この日、私は黙々と図書委員の仕事をこなしていた。
無理やり押し付けられた仕事ではあるけど感謝している。
だって、家に遅く帰る口実が作れたから…
「あれ、もう終わっちゃった?」
図書委員の仕事も終わり、窓を閉めて後片付けをしていると1人の男の子が扉を荒々しく開けて入ってきた。
急いできたのかな、すごい汗だ。
「まだ、大丈夫ですよ」
私には時間はいっぱいあるし、その方が逆に有難い。
「そっか、ありがとう」
彼はそう言ってにこりと笑うと、一冊の本を取り出して私の方に歩いてきた。
サッカー部のユニフォーム。
練習終わりに来たのかな?
「これ、返しといてくれる?」
「あ、はい」
私はその本を受け取り、片付けたばかりのノートを開いて彼の名前を記入する。
「君、2組の渡辺さんだよね?」
彼はそう言うと私の顔を覗き込んで来た。
「なぜ、私の名前を?」
3年間、同じ学年にいたとしても私は特に目立つタイプでもないし…
「だって君、入学式の時から凄い有名人だったよ」
そっか…私、凄い兄を2人も持ってるんだった。
「兄達が有名人だから、当たり前ですよね…」
「違うよ、それはただの後付けだろ?」
「え…?」
そのほかに何があるって言うの?
「男子の間では君の名前を知らない奴なんていないよ。サッカー部の中でも君のこと狙ってる奴なんかいっぱいいるし。」
なんだ…この人、ただ私をからかいに来ただけなんだ。
「そうですか…じゃあ、この本は返しておきますね」
私はそう言ってノートを閉じ本を元の場所に戻しに行った。
「君の背じゃ、そこは届かないでしょ?」
本を戻しに行ったのはいいものの、その場所は本棚の一番上で。
背伸びをして無理に戻そうとしていた私の手に彼はそっと自分の手を重ねた。
「ほら貸して…」
彼はそう言うとそのまま、するりと本を取り上げ目的の位置に戻してくれた。
「ありがとう…ございます…」
「お礼なんか言わないで…俺がワザと高い位置の本を借りたんだから」
「?」
私が意味を理解できず首を横に倒すと、彼は「ははは」と笑った。
「君が図書委員になったと聞いてチャンスだと思ったんだ」
この人、絶対に私をからかってる。
「私…か、帰ります!…と、戸締りよろしくお願いします」
私はそう言って鍵を机に置き、早足で出口に向かった。
彼はそんな私をみて優しく笑っていた。
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まなか(プロフ) - はじめまして。すごくおもしろいです、全て読ませていただきましたが話がとても深く、とても感情移入してしまいました。更新等頑張ってください。楽しみにしてます (2021年1月12日 22時) (レス) id: 55942c365e (このIDを非表示/違反報告)
彩波 - 面白いです!!!! もう感動して泣きましたよー!! part 2も頑張ってください! (2019年2月16日 6時) (レス) id: 6f464ca19c (このIDを非表示/違反報告)
まりあ(プロフ) - 魅月さん» ありがとうございます!!そのコメントに元気をもらいました!! Part2の方もどうぞよろしくお願いします! (2018年8月18日 0時) (レス) id: 3c107f3e51 (このIDを非表示/違反報告)
まりあ(プロフ) - 匿名でいたいさん» うずうずさせてしまってすみません!笑笑 Part2できました^_^ Part2の方でもうずうずさせない程度に頑張りますのでよろしくお願いします! (2018年8月18日 0時) (レス) id: 3c107f3e51 (このIDを非表示/違反報告)
まりあ(プロフ) - ゆうあさん» コメントありがとうございます!夢主が幸せになれるよう最後まで見守ってください^_^これからもコメントお待ちしております! (2018年8月18日 0時) (レス) id: 3c107f3e51 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まりあ | 作成日時:2018年4月20日 4時