71*やさしいひと ページ36
粉々になった窓の内側から鍵が外され、
がらら、と窓枠を全開にして、警察官の人が数人。
彼に銃を向けて、窓から部屋に入ってくる。
「動くなッ!」
向けられた銃口にぴくりともせず、
彼は、私の方を向いて。
______そのときだった。
瞬きをした彼の目の色が、ふわりと光を伴って戻ってきて、
驚いたように見開かれたその目に、座り込む私の影が映った。
「…………Aっ?!」
「、え………?」
「A!!……ね、A、どうした?!」
彼は警察の人たちに羽交い締めにされて、それでも私の名前をまた、叫ぶ。
「A?!何してるの?!誰かにやられたの、ねえ、俺が今助けるッ………!
なんで、早く放して!!おねがっ、彼女が危ないんだ、放してっ!!」
______今、何が起こっているの。
呆然としている私の前で、彼が泣き叫びながら連れ去られていく。
そのとき、駆け寄ってきた誰かに優しく抱きしめられた。
「………ごめんね。歌詞先生じゃないけど、ちょっとだけ僕で我慢して」
「…りぶ…先生………?」
彼の声が、反響していた。
「A!!なんで、早く、学校に連絡っ……、彼女が、危ないんだ、俺を放して!!」
ぎゅ、と優しく、りぶ先生に抱きしめられる。
「大丈夫。彼の担当医も、これから警察署で合流するみたいだから。
ここに向かいながら警察の方に聞いたんだけど、
______彼の精神疾患は、
二重人格、だったらしいんだ」
それを聞いた途端、
肩口の痛みも、手首の枷の痛みも、過呼吸も恐怖も、全部。
全部が、一瞬で、フッと麻痺した。
「………、優、」
ゆう。
彼の名前を思い出したとき、
何も感じられないまま、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれて。
「……う、ひっく、う、ああ、」
「元の方の優くんは、
君と付き合い始めた時点から、完全に時間が止まってる」
「っ、あああああ……!」
涙が。
ただ涙が止まらなくて、その間にも彼の影が、窓の向こうの車に押し込まれていく。
「Aっ!!A!!俺が、助けるから_______」
「彼はね、君と出会ったときのまま、きっとすごく優しい人なんだ。
……優しすぎて、君をちゃんと愛したくて、壊れてしまったんだと思うよ」
りぶ先生に抱きしめられて、声を上げて泣き叫んだ。
ただ純粋に楽しかった、
…あの頃を、思いながら。
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あきおと(プロフ) - 桜木さん» 急かされてるなんて全然です!たのしみにしてくださるとモチベが上がります爆上げです笑 とりあえず100話完結の予定になったので、本当に100話で終わるか見守っててください笑 (2018年2月22日 15時) (レス) id: 591088b3ea (このIDを非表示/違反報告)
桜木(プロフ) - あきおとさん» わわわ超まで付いてる…めっちゃ嬉しいです;▽;愛を叫ぶ桜木です(あきおとさんの作品の歌詞さんは本当に好みで作品自体もホントに好きなので……。ホワイトデーも楽しみに待ってます!急かしてたらごめんなさい;あきおとさんのペースで書き続けてくれたら嬉しいです! (2018年2月20日 11時) (レス) id: 69ddd43526 (このIDを非表示/違反報告)
あきおと(プロフ) - 桜木さん» 超覚えました!!いつも愛を叫んでくださるので!!(褒めてます) ホワイトデー早く描きたいなあ…間に合わなかったとしても番外とかで絶対ホワイトデーしますので、その時は是非!笑 (2018年2月20日 1時) (レス) id: 591088b3ea (このIDを非表示/違反報告)
桜木(プロフ) - あきおとさん» わぁぁぁあきおとさん!覚えて頂いて光栄です…!!!( ;∀;)ホワイトデーも楽しみです…!歌詞先生いじわるになっちゃうんですかね〜〜!!今からとっても楽しみにしてます……! (2018年2月19日 7時) (レス) id: 69ddd43526 (このIDを非表示/違反報告)
あきおと(プロフ) - 桜木さん» ぁぁぁぁあ!桜木さん、お久しぶりです!(笑) たぶんホワイトデーは、夢主が超接近戦でからかい倒されます() (2018年2月18日 22時) (レス) id: 591088b3ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あきおと | 作成日時:2017年8月19日 13時