とある上司の物語 01-07 ページ8
結婚をしたのは五年前、麻生と別れて三ヶ月後のことだった。
自業自得の結果がもたらした自己嫌悪によって胃を痛め、自棄になりながら通院していた時期の話である。
相手は医療部に在籍する三つ年上の女医で、
何がどうしてそうなったのか自分でもよくわからない内に籍を入れた。
式も挙げなければ引っ越しもない結婚だ。
さすがに申し訳ない気がして、
宮園が贈ったのはシンプルな結婚指輪だった。
左手の薬指にはまりっぱなしのそれだけが、
地味に継続されている二人の婚姻関係を証明している。
『まぁ、だからといって特に問題もないだろうが』
「宮園さんがいいなら、俺としては問題ないけどね、気持ち良いし、エ□い宮園さん可愛いし」
『お前に言わせれば、可愛くない人間なんていないだろうな』
誰とでも寝ることで有名な男だ。
宮園もそれを知っているから、斐之嵜ならば簡単に誘うことができる。
この後腐れのない不毛な関係も、もう一年近く続いていた。
「俺にだって好き嫌いはあるよ」
信憑性に欠ける言葉だ。
とはいえ、それさえもどうでもいいことなので、宮園はそれ以上何も言わない。
髪をおざなりに整え、どこかに外したらしい腕時計を探した。
「はい」
音も気配もなく、目の前に斐之嵜が立っていた。
恭しく差し出された手には銀色の腕時計が乗っている。
課長職に昇進した記念にと、麻生が買って寄越したものだった。
蕩けるような微笑みを浮かべた一誠は、首を傾げる。
瞳同様に艶やか黒髪がさらりと揺れた。
「奥さんって美人？」
『食いつくなよ』
「監理局の人だったっけ？」
『紹介はしない』
「三人で、っていうのもたまにはいいと思うよ、？
刺激になるし、愛も深まるかも」
『必要ない』
「ここには住んでないの？」
『お前には教えない』
後腐れはないが、奔放すぎるのも考え物だ。
ひったくるようにして時計を受け取り、立ち上がる。
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作者名：茄恋 | 作成日時：2017年12月21日 0時
