とある上司の物語 01-08 ページ9
『……っ』
突き抜けるような独特の違和感に、宮園は再び腰を下ろす。
錆びついているのはベッドだけではないらしい。
腰に手を当て、呻き声を漏らした。
「もっとて煽ったのは宮園さんだよ」
『……何も言ってないだろうが』
「でも、目が怒ってる」
『怒ってない。目つきが悪いのも眉間に皺が寄ってるのも生まれつきだ』
黙っていれば不機嫌に見えるし、口を開けば怒ってるように見えるという損な容姿だ。
それでも職務上有利なのも事実なので、今さら態度でフォローするつもりもなかった。
「マッサージでもしようか？ 俺、そういうのもわりと上手いよ」
『もう大丈夫だ』
何度か深呼吸すれば、体は慣れる。
挿入の時と同じだな、と思い至り、自分で自分に幻滅した。
行為の前後や最中はなんとも思わないのに、理性が一定量戻ってくると自己嫌悪で死にたくなるのだから、どうしようもなく厄介な性癖だ。
ため息にピピピという乾いた電子音が混じる。
ハッとして背広に手を伸ばした。
通信端末を取り出すと、斐之嵜が手元を覗き込む。
「緊急招集？」
『いや……お前、自分のはどうした？』
「オフィスに忘れて来ちゃった」
『前々から思ってけどな、お前には管理職としての自覚がなさすぎるぞ』
「休憩時間に後輩を部屋に連れ込むような課長には言われたくないなぁ」
のんびりとした正論に返す言葉もない。
宮園は眉根の皺を深くして、端末の液晶に視線をやった。
『総務？』
表示された発信元に首を捻る。
時間がある時で構わないので総務部に顔を出してほしい、との旨が記されていた。
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作者名：茄恋 | 作成日時：2017年12月21日 0時
