仮入部【如月志雪】 ページ8
兎佐伎は如月の横を通りすぎ、部室のドアを開け、室内の電気をつけた。
室内には丁度如月1.5人分くらいの高さの棚がずらりと並んでいて、木の杖、食品サンプル、犬のぬいぐるみなどの小道具が収納されている。
だが、その棚に収まりきらない小道具たちが床に転がっており、注意して歩かないと転んでしまいそうで危なっかしい。
「……道具がいっぱい………」
「みんな器用でね〜いろんな物パパっと作っちゃうからさっ!ほんっとすごいねぇ〜」
「慣れないと歩きずらいと思うから。気をつけてね!」
恐る恐る室内に入る。
如月はある程度物が少ない場所に来ると、ゆっくりと棚を見上げた。
「……凄い……」
棚に入っている小道具は全部、本物みたいに細かく作られている。トマトとか、じゃがいもとか、人参とか。ほっておいたら腐ってしまいそうで、不思議だ。
(……私には出来ないなぁ……)
「そろそろ始まるよ〜。急いで!」
兎佐伎の声で、如月ははっと振り返った。
「あ、……すみません……」
小道具に当たらないように気を付けながら、兎佐伎の元へ急いで駆ける。
「この椅子に座って待っててね〜!」
兎佐伎の周辺にはパイプ椅子が並んでおり、もう一年生らしき生徒が何人か座っていた。
如月も急いで席に座る。
さっきの棚のゾーンを抜けると、少し広い空間が広がっていて、段ボールとか机とかで作られた小さな舞台があった。
「……ありがとう……ございました……」
「よし!じゃあ、行ってくるね!」
如月が席に座ったことを確認すると、兎佐伎は早足で舞台の裏に行ってしまった。
時計の針は15時半を指そうとしている。そろそろだ。そろそろ始まる。
心臓がどく、どく、一定のリズムを刻む緒とが大きくなっていく。
楽しみ。そして、緊張。そんな気持ちがぐるぐると彼女の頭の中を回る。
時計の針が30分を示した。
舞台から金髪の男性が出てくる。そして、大きく息を吸うと、
「1年生の皆、仮入部に来てくれて感謝する!」
と、一言叫んだ。
ずっとうつ向いて、パイプ椅子の足をぼーっと見ていた如月は、目の前の舞台から声が聞こえて、慌てて前を向いた。
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