MISSING TWINs Ⅲ (ページ11)

今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:15,182 hit

ⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩix ページ11

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今日も仕事を終えた大我くんは私の元へとやって来た。
沈んだ表情で俯いた姿は、今まで背筋を伸ばして笑っていたとは思えない程の変貌ぶりだ。

「芹、いつ起きる？」

ー…たぶん…ー

もう２度と目を開ける事はない。
記憶に刻まれる程に見続けた夢が、目の前の光景と重なる。
私の手を握って泣いていた、“月明かりを弾く”大我くんではなく、この大我くんは“月明かりを吸う”大我くん。
ここに来る前に見ていた、心中を図った大我くんだ。

ーもしかしたら、違うかも…なんて淡い期待は持つべきじゃないよね…ー

毎日面会時間が過ぎて追い出されるまで、大我くんは自発的には病院から出ない。
その間、私の頭を撫でたり話しかける事はあれど、涙はあの時以降見せてはいない。
１度、家で泣いているのではないかと大我くんの実家であり、結婚後には私の家になる住まいへ向かった。
そこは、見えない壁が存在しているかのように私を拒んだ。

ー…ごめんねー

私には何も出来ない。
ずっと傍に居てあげる事も、白いベッドで眠る私を起こす事も出来ない。
起こりうる未来を、今の私は指を咥えて眺めるだけ。

ー苦行ぅ。私、何か神様に嫌われるような事したのかなー？ー

青々と、豊かに葉を揺らす樹木の隙間から覗く空に向かって、死者の心残りを晴らす時間を与えるような、そんな慈悲のある神様に苦言を申し立てる。
そよりと風がカーテンを揺らしただけで、答えらしい答えはない。
当たり前だけど。

「面会時間、過ぎてますよ」

「はい。芹の事、よろしくお願いします。芹…また明日も来るからな」

若い女性の看護師さんに終了の合図を頂戴した大我くんは、私の前髪をそっと払い、リップ音を鳴らして額に口づけた。
人が居るからなのだろうそれを、看護師さんは眉間に皺を寄せて見ていた。
それが「早く帰れ」と言う顔では無い事はとうに知っている。

「毎日面会にいらっしゃるなんて、奥様喜ばれてますよ」

「そうですか」

「こんな素敵な旦那様置いて逝かれたりしませんよ。早く目覚められると良いですね」

「そうですね。そうしたら新しいドレスを注文して、結婚式挙げたいです」

「あら、すみません。てっきり奥様なのかと…」

「先週挙式予定だったのですが、あんな事故が起きてしまったので」

「大変ですね…」

にこやかに話しかける看護師さんを見て、水戸部さん達は顰めっ面をしていた。