日々 (ページ5)

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「…やりますか」

午後の授業は丁度すっからかん。

ふたりで選んだ資料の山をピックアップして、
めぼしい部分を書き写す。
日が沈む頃漸く全部が終わって、
時間を確認するのにポンとスマホのボタンを押したなら

「……あ」

微睡む大好きなひとの姿。
胸がまたぎゅっと引き締められて、
痛くて。
夕陽の色に負けそうで。

そっと画面を横にした。
分厚い本に立てかけたらこの寝顔を見つけた時と
ほら、同じ体勢になる。

「やーぶちゃん、おきて」

あの瞬間のしあわせな気持ちを思い出して、
なんとか自分の弱虫を威嚇する。
小さくなって、それから消えて？
お願いだから。
お願いだから。

「……え」

ぎゅっと目を瞑った瞬間、体良くスマホが震えた。
画面に絵文字もなんにもない文字だけの通知。

『今どこ？』

「い、いま……どこ…」

なんでそんなこと聞くの。
プツプツと我慢が千切れて、何の準備もなしに立ち上がったものだから思いっきり机に足をぶつけてしまった。
お気に入りのブーツ、高かったのに傷ついたかも。
でもそんなの知らない。
どうでもいい。

跳ね上がる心臓をそのままにして、

『まだ大学、もうすぐ出るよ』

言葉だけ返す。
慌ててるから、かわいい絵文字とかスタンプも放り投げて転がるように図書館を出た。

どういう意図があるのかは分からない。

でも、合理主義の恋人が現在地を聞いてくるっていうならきっと、絶対、

「あ……」

やっぱり。
来てる。

校門の前に止まってる高級車と、
その傍に立っている長身のその人に
周りは好奇心いっぱいにチラチラ視線を投げている。
薮ちゃん、車だけはずるいくらい綺麗なんだ。
あと、スーツもすごく似合う。

「や、薮ちゃんどうしたのっ、
俺なんか忘れ物してた？」

忘れ物しててもわざわざ大学まで来ないに決まってるのに、そんな事をわざわざ聞いた。
動揺しすぎて声詰まってるし。
それ以外の何かって、なんにも思い当たらなくて
怖かったから。

「いや、別にしてないけど…」

「そう、なんだ…えっと」

「お前さ、もう会社前で待たなくていいから」

「あ……」

「わざわざ来られても…困る」

「ご、めんなさい……」

だって、早く会いたいんだもん。
スーツ姿の薮ちゃんと並んで歩いてたら、
なんか、ちょっと大人になった気持ちになって
勝手に嬉しくて。
1週間も会えないのに、

「お前も、困るだろ？」

たった2日ちょっとしかふたりで居られないなんて、
嫌なんだもん。

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