□86.大切なもの ページ43
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話し終わって少し間シーンと沈黙が続く。母だけでなく城戸司令の過去。そして一度も会ったことはなかった父。
「私が知ってるのはここまでだ…」
『……あの時の人は城戸司令だったんですね』
「覚えていたのか…」
『はい。あの後、母が頭が良くて運動神経も良い自慢の幼なじみだったって嬉しそうに話してたんです……あんなに嬉しそうな母は初めて見ました。……本当に城戸司令のこと大切だったんだと思います』
私の言葉に城戸司令はギュッと目を瞑り、また目を開き、ただ一言だけ呟いた。
「……ありがとう」
『私こそ話してくださってありがとうございます…』
城戸司令は話が終わったと椅子から腰を上げ帰り支度を始める。「また来る」と言った後、病室を出る前に振り返った。
「……空閑遊真はこのことをきっと知らない……話すのか？」
『……いや、今はその時じゃないと思うんです。その時期だと思った時に"貴方のお姉ちゃんだよ"って笑顔で言いたいと思います』
「そうか……それがいい」
『それでは失礼します』
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城戸司令がいなくなった病室はまたシーンと静まり返った。その静かな中で私の嗚咽だけが響く。
『……っ』
嬉しいかった。母がいなくなった日から私は天涯孤独だと思っていた。だけど違った。母親は違えど血の繋がった姉弟がいることを知った。
ーーお前にとって遊真は特別だからな
迅さん知ってたんだ……いや視えていたのだろう……
そうだよ。遊真くんは特別に"なった"
私はゴシゴシと乱暴に涙を拭う。悲しみよりも嬉しさの方が今は勝っている。
大切なものができるのってこんなに嬉しいんだ…
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