ゾンビとレモン水その1 ページ2
「助けてください……」
いつもの帰り道。そんな声が聞こえた。
か細い女の子の声。郊外のベッドタウンには似合わない、マッチ売りの少女のような台詞。
声の主はすぐに見つかった。声通りの女の子のようだ。年齢は私と同じくらい。通行人に声をかけている。でも大人たちは汚いものでも見るかのような目を向けて睨みつけるだけ。
「あの……」
女の子が私に気がついて振り返った。茶色の髪が、ふわりと揺れる。
「───!!」
じわっと手に汗が湧き出る。振り返った女の子は、誰もがすぐに逃げ出したくなるほど恐ろしい顔をしていた。光が灯らず、瞳孔が不自然に開いた目、青ざめた顔はもう少女がこの世のものではないことを物語っている。喉の奥がきゅうっと詰まる。すうっと血が体中から引いていくのを感じる。
だから皆無視していたのか。疑問が氷解。
少女が諦めが混じった笑みを浮かべる。もしかしたら何回もこんな顔をされたのかもしれない。少女は逃げるのを促すように、私から目をそらした。チャンス、なのかも知れない。
──でも私は気がついてしまった。少女が今一瞬、泣き出しそうな表情を浮かべたのを。
「あっ……あのっ……!」
声が震える。でも、私はどうしても言わなきゃいけない。あの女の子は多分人間じゃないけど、あんな表情は絶対にさせてはいけない。どうにかして、さみしさを紛らわせてあげたい。なぜかそう、強く、強く、思った。
「大丈夫……?」
少女が、目を見開く。
「私が、怖くないんですか……?」
女の子の目からぽろぽろ涙がこぼれる。どうしよう、泣かせてしまった。
「ど、どうしたんですか……?あ、あの、ゾンビって泣けるんですね……」
「そこじゃないです……そこじゃないですけど……ありがとう……ございます……」
なんだか必死のフォローが空振りに終わったのを感じながら私は女の子を必死に慰め続けた。
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作者名:みどりがめ。 | 作成日時:2019年6月30日 16時