その2 ページ3
「なるほど…… 誰かと話したくてああやって話しかけてたんですね……」
「すみませんでした……」
十分後。少女が生活しているらしい廃ビルに座りこみながら、簡易的な事情聴取を終えた。ゾンビと廃ビルが奇妙にマッチしてちょっと怖い。近くのコンビニで買ったレモン炭酸を喉に流し込む。なんだか軽薄な味がした。
「別に謝ることはないです。あなたは悪くありませんよ……それより、名前、聞いてなかったですね……教えてくれませんか?」
女の子が息を詰まらせる。
「…………私、生前のことほとんど覚えてなくて……、だから、手当たり次第に声かけてたんです……」
そうだったんだ、悪いことを聞いちゃったね、と言うと、いえいえ、と女の子が首を振った。
女の子が、レモン水をごくりと飲み込んだ。消化器官が弱いから固形物は無理だとはさっき言っていたけど、液状なら平気らしい。
「あの、あなたの名前、教えてくれませんか?」
そういえば、教えてなかった。
「こだま……星野、こだま、です。」
「こだま……さん……覚えました!いい名前です!」
「ありがとうございます……えっと、これからどうするつもりなんですか……?」
「あ、あの!わたし、だから思い出すことが先決だと思ってるんです!……だ、だから……あの、あなたに、手伝ってほしくって……」
「そんなのここまで踏み込んだんだから、応援しますよ!もちろん」
「ほんとですか?ありがとうございます!」
目を輝かせる女の子。
「でも、貴方、とかじゃ、呼びにくいですよね……」
名前をつけろって言うことか……責任重大だ。そういえば女の子はきれいな髪飾りをしている。なんだか懐かしい、鈴がついた大きなリボン。鈴がチリン、と清らかな音を鳴らした。
「じゃ、りん、で」
「りん、ですか……」
「……安易すぎたかな、ごめんね……」
「い、いえ……良い名前ですよ!ありがとうございます……」
遠慮させてしまった。もっとちゃんとした人に名付けてもらえばよかった。
私は背をピンと伸ばした。りんちゃんも気がついたみたいで姿勢を改める。
「──では……これからよろしくね、りんちゃん」
「その名前で呼ばれると緊張しますね……よろしくお願いします、こだまちゃん」
こうして私の少し不思議な生活が──
──順風満帆に始まった、のか?
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作者名:みどりがめ。 | 作成日時:2019年6月30日 16時