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「ベタすぎんだろ！何かね、パウンドケーキみたいなやつ。岩ちゃんオススメ」

「絶対間違いなさそう！」

「岩ちゃんだからね」

「うん」

岩ちゃんもまさか、私たちにこんなに信頼されてるとは思うまい。

「食べても良い？隆二さんも食べるでしょ？」

「うん、食べる」

キッチンでひと切れずつ慎重にカットしていると、隣で手を洗っていた隆二さんが「誰か来てたの？」と水切りカゴを見た。

「ん？」

「マグカップ。誰か来てたのかなぁって」

「あ……それ父と母の。今日ね──」

自分の儀式のことを語ろうとして、私はふと手を止めた。

「隆二さん……今日、わざわざ来てくれたの？1月17日だから来てくれた……？」

「ん？うん……まぁ……寂しくなってたりしないかなぁと思って」

別に照れることじゃないのに、隆二さんは恥ずかしい時の癖で頬を指でスリスリ撫でている。

「ありがとう。優しいですよね……隆二さん」

純奈の“お姫様”発言を思い出しながら、私はお茶とケーキをテーブルに並べた。

岩ちゃんオススメというだけあって、ケーキは洋酒とオレンジピールが効いてて美味しくて貴族の味。

「大人のケーキですね！んー美味しい。もうひと切れ食べちゃおかな」

「行かないの？」

「えっ？あ……明日の飲み会！？行きますよ？」

「違くて。地元」

隆二さんの質問に、私は反射的に目を伏せた。

「A、この時期に帰らないよね？」

「うん、帰らない」

「何で？」

「……色々思い出すから」

家があった場所は、区画整理で公園になっている。

でも、その公園に行ったことはない。

「薄情に思われちゃうかもしれないけど、追悼式典とか家があった場所とか……行けないんです。怖くて」

「……俺と一緒でも？」

「え？」

「２月に大阪でライヴやるじゃん。そのとき一緒に……」

空っぽになっている隆二さんのお皿を見つめながら、私は小さく首を横に振る。

「隆二さん、私ね、父と母の手を掴めなかっただけじゃなくて、骨も拾ってあげれなかったんです。本当に、何もしてあげられなかった」