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「私も一緒に行ってあげよっか?」
「え?」
純奈はチョコの包みをクシャクシャに丸めながら「どうする?」と首をかしげた。
「え!?良いの?純奈も一緒だと心強い!」
「良いよー。それ確か健太朗も参加するやつだし。それにー、私も見たいじゃん、生ジャマ子」
丸めた包みをゴミ箱にシュートした純奈は「修羅場期待してまーす」と私に笑いかけた。
「修羅場は絶対嫌なんだけど……」
「ふふっ。あ、Aさぁ、次の休みの日、買い物……」
そこまで言って、純奈は言葉を切った。
「ごめん、あの日か」
私は「うん」と頷き、ゆったり微笑んだ。
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純奈が言った“あの日”、1月17日が来た。
朝4時に起きて、シャワーを浴びて、身支度を整える。
コーヒーを淹れて、自分の分と父と母の分のマグカップを用意する。
ダイニングテーブルの私の席の向かいにマグカップを2つ置き、ゆっくりコーヒーを飲む。
中身が減ることのない、マグカップを眺めながら。
自分のコーヒーを飲み干した頃、庭に出て昇ってくる太陽を見つめる。
それから、ただ静かに時間を過ごす。
本を読んだり、掃除をしたり。
そして、太陽が沈んだのを合図にマグカップを片付ける。
1月17日の、私の儀式はこれで終わり。
父と母が亡くなった日は、ただ静かに過ごすことにしている。
泣いたりはしない。
思い出に浸ったりもしない。
ただ、ただ、静かに父と母を想う日。
「さて……」
ご飯の支度に取り掛かろうとしたとき、玄関の鍵を開ける音がした。
「……あれ?」
隆二さん、来る予定じゃなかったよね?と思っているうちに、彼はダダダッとリビングに入ってきた。
「さみぃー!」
「おぉ!隆二さん!」
「おぉ!A!」
「いや、ここ私の家!」
隆二さんは笑いながら、冷えきった手で私の頬を包んだ。
「つめたー……」
肩をすくめる私の頭にキスをして、隆二さんはテーブルに小さな箱を置く。
「名古屋のお土産」
「え!本当!?うれしい!勿論ういろうでしょ!?」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年2月5日 20時