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二人でヴィラのビーチまで戻ったとき、私は海を指差し「船!」と叫んだ。
ヨットクルーザーが、こちらへと少しずつ近づいてくるのが見えたからだ。
「こっち来て初めて船見たかも……素敵ですね、インド洋クルーズ。ね?」
隆二さんを見上げると、彼は「そうだねぇ」と眩しそうに船を眺めた。
「このビーチに来るってことはヴィラに宿泊してる人が乗るんですよね……ちょっと気になりません?」
「え?」
「どんな人が乗るのか」
「気になるかぁ?」
「気になりますよ!こんな良いとこに泊まっておまけにクルーズとか……幸福者の顔見てみたい」
「……案外、Aのことじとーって見てた人かもよ?」
「確かに。あの人富裕層ぽかった」
私たちは一体どんな人が乗り込むのかと、然り気無くそれでいてガッツリと視線をあちこちに向けながら砂浜に腰を下ろす。
そのとき、ビーチに停泊したクルーザーから専属のスタッフらしき人が降りてきた。
乗船する人を迎えに来たんだろうけど、それらしき人は見当たらない。
遅刻?まだ来ないの?と、私がキョロキョロしていると
「あっ」
ふいに隆二さんが手をパチンと叩いた。
「俺らだ」
「え?」
.
.
.
「この船乗るの俺らだ」
.
.
「………え?」
何を言ってるの?と戸惑っている私の手を隆二さんは握って立たせ、そのままヨットへ近づいていく。
スタッフの人と何か談笑を交わした隆二さんが先にクルーザーに乗り込み「ほら」と私に手を差し出す。
クルーザーの高さ分だけ隆二さんを見上げる私に、彼は優しく微笑んだ。
「乗んないの?大好きな船なのに?」
「………」
事態が、よく飲み込めない。
「……俺一人でサンセットクルーズとか寂しいんだけど」
私は暫く隆二さんの瞳を見つめ、
笑顔で大きく頷いて、その手を強く掴んだ。
────幸福者は、他でもない
私だった。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年2月5日 20時