The last night. ページ22
・
二人きりのクルーザーは5分ほど進んだだけで、出航したばかりのヴィラがもう遠くに見えるほどになった。
ゆったりと膨らむ、濃く青い海。
辺りは薄暗くなってきて、風も涼しい。
「気持ちいい……」
風に目を細める私に、隆二さんは泡が立ち昇るグラスを差し出した。
「え！こういうのも付いてる感じですか！？」
「付いてる感じです」
笑いながらそう答えた隆二さんと船首に立ち、肩を寄せ合い海を眺める。
「Aは、何で海とか船が好きなの？」
「海は終わりがないからです。その終わりがない海を進んでく船も好きで」
「終わりがないから？」
「うん」
「だから宇宙も好きってこと？」
「そう！宇宙ってこうしてる間にも広がってるって言うじゃないですか。果てがないってすごいなぁって」
「だからそこに浮かぶ星も好き？」
「正解！」
笑顔で頷いた私に、隆二さんも微笑み返す。
「どんなものも、いつか終わりが来るでしょ。諸行無常ってやつ？だからかな、何か当たり前のようにそこにあるのに終わりがないものに惹かれます」
永遠を望めば足りないものばかりの世界で、唯一終わりのないもの。
「それに、海から生まれた人間は最後に星になるって言うじゃないですか？何か、こう……繋がってる感じして」
「なるほどね……」
暫く黙って海を見つめていると「A、そろそろ」と、隆二さんが私の肩を叩いた。
「ん？」
隆二さんが指をさす方。
ひたひたと無限に波打つ大海原に、ギラギラ燃えていた太陽がゆっくりと沈もうとしていた。
「朝陽見せてくれたじゃん」
「あ……付き合う前？」
「そうそう。夜明け前の真っ暗な中に昇ってくる太陽見ながらAが色々話してくれて……俺感動したんだよなぁ」
「それ……大袈裟に言ってない？」
小さく笑う私の背中を、隆二さんは「本当だって！」と軽く叩いた。
「お返しに夕陽見せてあげたいなぁと思ってて」
「隆二さん、夕陽が好きだから？」
「そー。何で好きかって言うのはねぇ……」
「うん」
「ちょっと分かんないんだけど」
「なにそれ！？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 737人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ぽち。
| 作成日時：2019年2月5日 20時
