飛び立つ気持ち。 ページ1
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自宅のテレビで流れているのは、大晦日の歌番組。
キラキラしたアイドルがステージ狭しと動き回っているのを観ながら、私はスーツケースと格闘していた。
────真由の愚痴を聞きながら。
「年末年始も仕事ってどういうこと?本社ってそんな忙しいわけ?」
「取引先が動いてたらこっちも休めないじゃん。仕方ないよ。くそー、これ入んないなぁ」
「大晦日だよ?大晦日に妊婦ほったらかす?」
「ほったらかしてない!仕事!くまさんだって真由とゆっくりしたかったに決まってるじゃん。あれ?パスポートどこやった?」
「もう!もうもう!聞いてよ私の話!」
「聞いてるじゃん!」
「聞いてない!気持ちはもうバリ行ってる!」
「行ってないって!カリカリすると赤ちゃんに良くないよ?ほら、そのたんぽぽコーヒー飲んで」
「……あんま好きじゃないこれ」
「えぇ……真由が来るって言うから帰りに買ってきたのに」
大晦日の夕方まで仕事に追われていた私は、今ようやく旅支度に取り掛かっている。
「それで?今市くんはどこかな?」
「そこだよ!テレビの中!」
「ふふ。聞いてみただけ」
「そうですか」
「引っ越しのときビックリしたー!Aの彼氏が芸能人とかさ!しかもテレビで観るより数倍かっこいいんだもん!」
真由が東京に引っ越してきた日、旦那さんのくまさんは仕事で“男手がいるだろう”と、隆二さんも手伝ってくれた。
真由に隆二さんを紹介して良いのか、凄く迷った。
真由が周りに言う心配じゃなくて、彼女に余計な気を使わせたらどうしようと思ったから。
でも、真由の性格のお陰か隆二さんの性格のお陰か、二人は和気藹々と部屋を片付けていて、私は凄くホッとした。
それと同時に嬉しかった。
幼なじみに、隆二さんを紹介できたこと。
隆二さんに、幸せな幼なじみを紹介できたこと。
「何かさ、Aはそういう星回りなんだよね」
「んー?」
「すごーく愛してくれる人に巡り会う星回り」
「それは真由もでしょ」
スーツケースに鍵をかけ、私はポンッとそれを叩いた。
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2019年2月5日 20時