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「だからぁ！」
「誘ってくれた健太郎の顔潰す気！？早く食べな！行くって言うまで荷物返さないから！」
「ちょっと！」
「財布もないのにどうやってホテルまで帰るんですかー？行くしかないですよー？」
「……はい」
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グラスのぶつかる音、食器を置く音、
みんなのお喋り、笑い声、そろそろ引上げる人たちの挨拶。
それらが混じり合って作るざわめきの中で、私は壁際の席に座り、談笑している今市隆二さんをぼんやりと眺めていた。
2クラス分くらいの人数が行き交うお店の中で彼をすぐに見つけることが出来たのは、彼の声が大きかったから。
────もし、好きなアーティストと街でバッタリ会ったら
もし、お店で隣の席に座ったら
そんなシチュエーションを想像するとき、頭の中の私はドキドキして落ち着かなくて、チラチラとその人を見ていた。
なのに、実際にそういう場面になっても、私はぼんやり眺めているだけ。
すぐそこに居るのに、本物の今市隆二さんだという感じがしない。
ころころと転ばすような笑い声も、顔中“笑顔！”なその表情も
３次元じゃなくて、超高画質の映像を観てるみたいだ。
数時間前、遥か遠くのステージで唄っていた今市隆二さんは、確かに本物に思えたのに。
それは彼が今、素に近い状態だからかもしれない。
ライヴを終えて、気の置けない人たちとリラックスしている姿は、私が普段見ることない姿。
だから何となく“本物”な感じがしないのかも。
………そんなリラックスする場所にライヴのお客さんである私が紛れ込んでるってどう？
健太郎くんは“俺の友達なんだから良いじゃん”って言ってくれたけど……どう？
「純奈……どこ行ったんだろ」
お店の中を見渡すと、純奈が健太郎くんと二人で何か話し込んでいるのが見えた。
久しぶりに会ったから話したいことはたくさんあるだろう。
私は注文したレモネードに浮かんでいたミントを奥歯で噛み、腕時計を見た。
「12時半……」
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作者名：ぽち。
| 作成日時：2018年7月24日 22時
