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“リュウセイの人”が、わざわざ私に会いに走ってきたりしない。
お腹が空いたイヴの夜に、たまたま近くに居たのが私だっただけ。
例え六本木に居たのが友達だったとしても、彼は“今から会おう”と言ったに違いない。
何故なら……お腹が空いているから。
「あそこ行く?昨日の」
「あ、東山のですか?」
「そうそう。連チャンになっちゃうけどあそこなら席空けてくれそうだし……大丈夫だよね?」
何が大丈夫なのか分からなかったけど、お互いよく知ってるお店なら気を使うこともないし良いかもしれない。
2席空いているか確認の電話をしている隆二さんを見ながら、私は“ふーっ”と肩の力を抜いた。
そして、跳ね上がった胸に語りかける。
おい、浮かれるなよ────
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「いらっしゃい」
お店に着いた私たちを、シェフが笑顔で迎えてくれた。
“隆二さんと私”という組み合わせを見ても、シェフは大きなリアクションをしたりしない。
接客ってこういうことなのかも。
「すみません、急に席用意してもらって」
「全然!予約のお客さんも捌けたとこだったから気にしないで」
店内を見渡すと、確かに後片付けが済んだテーブルが並んでいるばかりで、お客さんは数えるくらいしか居ない。
「良かったら個室でゆっくりしてってね」
個室はちょっと気まずい……と思ったけれど、店員さんに促されるまま、私たちは四畳半ほどの部屋に入った。
初めて入ったけれど、これは個室というか……密室じゃないか。
「本日限定のコースがおすすめです」
その言葉と共に差し出されたメニュー。
「どうする?」
隆二さんに訊ねられ、私は「お、お任せします」と答えた。
「んー……じゃあ、コースで」
「かしこまりました」
パタンと閉じられたメニューと、個室の扉。
また沈黙が“どうもどうも”とやってくるかと思ったけど、水を一口飲んだ隆二さんが唇を開いた。
「今日、あの店員さん居ないね。キッチン?」
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作者名:ぽち。 | 作成日時:2018年7月24日 22時