No.1510。 (ページ26)

今日:52 hit、昨日:29 hit、合計:500,835 hit

4 ページ26

・

外に出ると乾いた空気の中、都会の夜の音が低く渦を巻いていた。

「寒っ……」

手に息を吹き掛け、帰り道の方に足を向けた私の3mほど先、

歩道の柵にもたれている人が見えた。

車道を流れるヘッドライトが逆光になって顔が良く見えないけど、その人が私の方を向いている気がする。

「知り合い……？」

暗闇の中に佇む人物が誰なのか探ろうと細めた目に、ぼんやりと霞んだ幕のようなトラックのヘッドライトが近付いてきた。

大きな音を立ててトラックが私の傍を通り過ぎる瞬間、

眠っていた目が覚めたように、急に辺りが明るくなった。

歩道に居るその人の顔に、ライトが当たる。

少し離れても姿形がハッキリ見分けがつくほどの明るさの中、

顔にフィルムのネガのような陰影を作っているその人は

随分前にお店を出たはずの

隆二さんだった。

驚きのせいか、街を行く人々の単調なざわめきが、海の底にいるみたいに聞こえる。

「え……」

隆二さんは柵から離れ、私の方へゆっくり歩いてくる。

寒さに肩をすくめ、ジャケットのポケットに手を入れた隆二さんは、

私の靴の爪先にぶつかりそうな距離で立ち止まった。

私は戸惑いで俯きそうになる顔を上げ、自分より頭ひとつ分大きい彼をそっと見上げる。

「……隆二さん、こんばんは」

恐る恐る覗き込んだ隆二さんの瞳。

それは酷く、甘かった。