No.1510。 (ページ24)

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「Aちゃん、今日デザートは？」

シェフに訊ねられ、私は首を横に振った。

早くお店を出たくて「ダイエット中なんです」と、つまらない嘘をついた。

本当は抹茶のフロマージュが食べたかったのに。

曖昧な笑顔をシェフに向ける私の鼻に、美味しそうな匂いが漂ってきた。

隆二さんが頼んだお肉料理の匂い。

赤っぽいソースが乗ったお皿を“美味しそう……”と目で追っているうちに、

パンっと弾けるように隆二さんと視線がぶつかった。

椅子ひとつ分の空間を空けて、私たちは数秒目を合わせた。

先に目をそらしたのは……多分私。

このお店で、こんなに居心地が悪かったのは初めて。

あの夜は、あんなに話が盛り上がってたのに

今は軽い挨拶さえ交わせない二人。

隆二さんからすれば“危ない女”が自分の行き着けの店に現れた！って感じだと思う。

気まずいのかもしれないけれど、それは私も同じ。

別に付け狙ってる訳じゃないことをアピールする為にも、私が先にお店を出なきゃ。

「はい、お茶漬けー」

陽ちゃんが器を運んできて、私は頭をピョコっと下げた。

「ありがとう」

ご飯の真ん中に乗せられた大きな梅干しの実をれんげで崩して口に運ぶと、酸っぱさが舌の上で踊る。

このあと運ばれてくるワインも、きっと酸っぱいだろう。

何とも形容しがたい夜にぴったりの────酸っぱい味だ。

「ワインどうぞ」

カウンターに滑らされたワイングラスに口をつけると、ワインは思ったより甘くて酸味はほのかに漂うくらい。

お出汁で熱くなった舌によく冷えたワインが心地よくて、私はグラスの半分を一気に飲んだ。

「あれ？もう１杯いっちゃう？」

陽ちゃんの言葉に、私はまた首を横に振った。