No.1510。 (ページ12)

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そわそわ落ち着かない手をバッグに入れ、携帯を取り出す。

純奈に連絡しよう。

非常事態発生中だと。

パスコードを入力し、携帯のロックを解除した瞬間

「あっ」

隣の隆二さんが、急に声を上げた。

ビクッとして顔を上げると、隆二さんは私の携帯の画面を覗き込んでいる。

「好きなんですか？」

「え？」

「その人、好きなんですか」

私が待受画面にしている“超”が付くマイナーな海外アーティストの写真に隆二さんは視線を落としていた。

「あ、はい。この間、ライヴに行ってきました」

「ライヴ？来日してないっすよね？」

「アメリカまで観に行ったんです。ダラスまで」

「えぇぇ！！まじっすか！？」

「ま、まじっす」

「ヤバーイ」

………どっちの意味の“ヤバイ”だろ。

「ご、ご存知なんですか？凄くマイナーなのに」

「知ってます。去年のアルバムも───」

酔っているせいか口調はゆっくりだったけど、隆二さんは一切寄り道もせず、そのアーティストについて語りだした。

まるで、CDのライナーノーツを読み聞かせてるみたいに詳しくて、私はその内容に圧倒される。

「────でも、まだライヴは観たことなくて。だから羨ましいです……えっと……」

隆二さんは閉じ込めた蛍を放つように手のひらを開き、その手を私に向けた。

“お名前は？”と訊ねるように。

「あ……Aです」

私はこのとき、何故かファーストネームを口にした。

「Aさん」

確認するように名前を呼ばれ私が頷くと、隆二さんも頷いた。

そして、タクシーがホテルの車寄せに滑り込むように停車した。

私たちは話をしながらタクシーを降り、盛り上がったままホテルの中に入った。